てりとりぃ放送局アーカイヴ(2012年2月17日〜2012年3月2日分)

 格闘技観戦が好き、サッカー観戦も好き、ボサノバもサンバも好き、なんていうのは全て偶然でしかありませんが、そんな偶然も4つ重なれば、ブラジルという地球の裏側にある国にはどうしても興味を抱かないわけにはいきません。かつて木村政彦が、もしくはピエール・バルーが、はたまたキング・カズがその地/血に何を見たのか、は当方には知る由もありませんが、古くから世界の多くの人がそこに「熱(FEVER)」を感じたのは間違いない、と思います。元々1939年に書かれたというとても古い「ブラジルの水の色」というタイトルのこの曲が、21世紀の今もその「熱い」国を象徴している、というのもなんだかどこか素敵な話に思えてしまいます。そんなわけで今回は、「非公式のブラジル国家」とまで呼ばれるスタンダード「BRAZIL」のバリエーションをご紹介。(2012年2月17日更新分/選・文=大久)


Aquarela do Brasil (1942)

 ブラジルの曲で最も有名なもののひとつ、とされる「BRAZIL(原題 Aquarela do Brasil)」は1939年の初め頃にアリー・バホーゾという作曲家によって作られました。同年6月、アラシー・コルテスというシンガー/女優によって初めて歌われたこの曲は、当初はそれほど人気を得る事はできなかったそうですが(彼女の声にあっていなかった、という評があります)、直後には数人のシンガーによって再び録音され、8月にフランシスコ・アルヴェスという男性シンガーのバージョンによってヒットしました。そして1942年。ウォルト・ディズニーが制作したアニメ『ラテン・アメリカの旅』の中の一編「ブラジルの水彩画」で全編に渡りフィーチャーされたこの曲(歌はアロンソ・オリベイラ)で、世界中に「サンバのリズム」のインパクトを植え付けることに成功しています。動画はそのアニメ「ブラジルの〜」全編です。


Les Paul / Brazil (1948)

 演奏するのはレス・ポール。そう、あの有名なギターのモデル名になった人です。彼もこのスタンダードを録音しているのですが、実はこのトラックはその楽曲うんぬんとは別の意味で歴史的な価値を持っています。というのも、この曲が「世界初のマルチトラック・レコーディング」だった、ということです。実はこの演奏で使用したギターは(ギター・マニアには有名な)「THE LOG」という氏の自作エレキギターで、これは世界初のエレキギターといわれているものです。機材フェチでも有名なレス・ポール氏ですが、テープの高速回転技法等も含めて、記念碑的な曲でもあります。


Django Reinhardt / Brazil (1953)

 天才ジャンゴがどういう経緯でこの「BRAZIL」を知ったのかは寡聞にして存じませんが(おそらく渡米していた時期かとは思うのですが)、彼は生涯で計3度この曲を録音しています。最初は47年7月(クラリネットがリードをとるバージョン)、2度目が49年の1〜2月にローマでステファン・グラッペリ等と、そして3度目がこちらで聴ける、DR、B、P、Gという編成で残された53年3月パリ録音の音源です。ここでジャンゴはギターにピックアップを付けて、エレキギターとしてリードを取っています。「SELMER+STIMER」という、ジャンゴマニア垂涎のディバイス、ですね。


Antonio Carlos Jobim / Brazil (1970)

 ブラジル音楽の巨人アントニオ・カルロス・ジョビンがCTIに残した超名盤『STONE FLOWER』にもこの曲のカヴァーが収録されています。恐ろしくリニアで密室性の高い録音にも驚かされますが、クラブ・ミュージックとして完成されているかのようなビートとグルーヴに脱帽です。ロン・カーター(B)、ジョー・ファーレル(SS)、ヒューバート・ロウズ(FL)、アイアート・モレイラ(PER)といった強者を巧みなアレンジでまとめあげたのは、メロウなエレピのプレイも聴かせてくれるエウミール・デオダート(P/ARR)。勿論録音はルディー・ヴァン・ゲルダーです。ジャケも含めて、なんというクールな作品でしょうか。


Pink Martini / Brazil (1997)

 バンド・リーダーでもあるちょいメタボのピアニスト、トーマス・ローダーデイル氏がなんと筆者より年下だった、なんて知ったのはつい最近のことですが(笑)、最近は由紀さおりとのコラボ・アルバムでなにやら世界中を湧かせているピンク・マルティーニ。「レトロ・ジャジー」を標榜する13人組のピンク・マルティーニは、いつもお洒落で胸キュンなそのアルバム・ジャケットも大好きなのですが、デビュー盤『SYMPATHIQUE』(97年)でこの「BRAZIL」を取り上げており、その飄々としたアレンジも大好きです。

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 遂に傘寿の大台に乗ったミシェル・ルグラン。ここでは彼の膨大な記録映像のなかから、気ままに選んだ6本をご紹介。古くは60年代から最新のもので一昨年の取材映像まで。実のところ意外にも多くのライヴ映像が商品化されているが、その大半が現在は廃盤。いずれ「ミシェル・ルグラン・ライヴ大全」的なDVDをまとめたいと夢想しつつも、なかなか敷居は高そうだ。(2012年2月24日更新分/選・文=濱田)


Michel Legrand Is Music

まずは2010年に制作された音楽ドキュメンタリーのティーザー映像から。クインシー・ジョーンズ、トニー・ベネット、バーブラ・ストライサンド、ペトゥラ・クラーク、ジョニー・マティス、ノーマン・ジュイソン、ジョン・ヴォイト等々ゆかりの人々に取材を敢行するも、素材チェックの時点でミシェルのお気に召さずティーザーだけが公開され、本編はお蔵になったという貴重なもの。彼のドキュメンタリーは過去にも複数制作されたが、とりわけ秀逸なのがフランソワ・レシャンバック監督によって撮られたTV特番(未ソフト化)。こちらはヘンリー・マンシーニやジーン・ケリー、エディ・バークレイら今や鬼籍に入った大御所との共演が見ものだ。権利関係から今後もソフト化の見込みはないが、別項のルグラン講座(全5回)のいずれかで上映予定。


Michel Legrand / 1964 (1965)

イエ・イエ・ガールズを従えて、歌い、踊る、若き日のミシェルの勇姿。才気煥発、あり余るエネルギーを放ちながら自慢の喉を披露している。本国で放送されたTV特番からの一幕(エンディング・パート)で、本編ではほかにサッシャ・ディステルやフランシス・ルマルク、コリンヌ・マルシャン、ソフィ・ドーミエ、ナナ・ムスクーリら楽曲提供した歌手が大挙して出演している。



Elis Regina e Michel Legrand / Summer Of 42 (1972)

毎年ブラジルで気の置けない仲間とのセッションを行うのが恒例のミシェル。今も年に数週間はブラジルで休暇を過ごすという彼が、今年没後30年を迎えた、在りし日のエリス・レジーナと共演した映像。歌うはミシェルの代表曲のひとつ「おもいでの夏」。ブラジルといえば、一昨年、イヴァン・リンスとアルバム制作に着手し、数曲共作したそうだが、結局企画は(本人らの意志とは別の理由で)頓挫した模様。



Sarah Vaughan and Michel Legrand (1972)

1972年、ロスのスタジオで歌うサラ・ヴォーンとミシェル。同年メインストリーム・レーベルで制作された『SARAH VAUGHAN SINGS MICHEL LEGRAND』はデイヴ・グルーシンやレイ・ブラウン、チャック・フィンドレイ、チャック・レイニーら辣腕ミュージシャンが脇を固めた。ここで歌われたのは映画「おもいでの夏」主題歌「SUMMER KNOWS」と「SWEET GINGERBRED MAN」の2曲。エリス・レジーナのヴァージョンとの聴き比べをお楽しみあれ。



Oscar Peterson, Michel Legrand & Claude Bolling / Watch What Happens (1984)

才能を認め合う3人のピアニスト、ミシェルとオスカー・ピーターソン、クロード・ボリンが組んでピアノの連弾を披露したプログラム「GRAND PIANO」は、米国を中心に各地で喝采を浴び、それに感化されたのが、前田憲男、佐藤允彦、羽田健太郎の三者による「トリプル・ピアノ」だった(とは筆者が生前の羽田氏から聞いた逸話)。オスカー&ミシェルによる名演「WATCH WHAT HAPPENS」はジャック・ドゥミ監督映画「シェルブールの雨傘」のサイド・テーマ曲。もとは同監督作「ローラ」のために書かれたものだ。。


Michel Legrand & Stephane Grappelli / How High The Moon(1984)

最後はミシェルがポール・ミスラキと並び尊敬して止まなかった名ヴァイオリニスト、ステファン・グラッペリとの共演映像。グラッペリ、実はピアノの名手でもある。ロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールで行われたコンサートからの映像で、曲は1940年のミュージカル『TWO FOR THE SHOW』のために書かれた「HOW HIGH THE MOON」。グラッペリはノンクレジットながらミシェルのオーケストラ・アレンジのアルバムやサントラの録音に度々参加している。

*動画のリンク切れの場合はご容赦ください。



 いにしえの時代から今日に至るまで、ほんのりと、なんとなく、でもやっぱり、というカンジではありますが、ジャズというジャンルにおいて「ギター」という楽器はやや軽視されてきました。ギターという楽器に人並み以上の愛着を持っている当方は、本来ここでは声を大にして反論すべきなのですが、実は「あ、やっぱり?」っていう気持ちも心のどこかにあったりします。楽器の構造として、他の楽器に比肩するのが難しいのです。楽器音の電気増幅が可能になってからは話も変わりますが、構造としては変わりません。
さて、今回はそんな虐げられがちな(笑)ジャズ・ギターの動画を何本か。上記を踏まえて「どうだ!ギターだって偉いんだゾ」というようなジャズ・ジャイアンツ動画を載せた方がいいのかもしれませんが、今回はちょっとヘンテコな目線で「これ、面白くね?」というノリでご紹介してみたいと思います。(2012年3月2日更新分/選・文=大久)


Django Reinhardt / J'attendrai (1939)

 ここでジャズ・ギターの歴史を紐解く、なんてつもりは一切ありませんが、ジャンゴはやっぱり偉大です。当時のアンサンブルにおいて、完全なリズム楽器(しかも3重にしてやっと)という役割を担うので精一杯、というあたりがこの楽器の弱点を物語っていますが、あの天才はひらめきと努力で「バンドにおけるギタリスト」の地位をトップにまで持ち上げました。今現在でも、誰もジャンゴのようには弾けません。指にハンデのない人でも、こんな風には誰も弾けない、という事実。音楽って難しいですねえ。


Mary Osborne at Art Ford's Jazz Party (1958)

 こちらの動画は58年ニュージャージー付近のローカル局WNTA-TVで放送された「アート・フォードのジャズ・パーティー」9月18日放送分の一部、になります。ギタリストに御注目。なんと可愛らしい方でしょうか。どこぞの美人女優かと見まごうばかりの彼女はメアリー・オズボーンというギタリストで、40年代からプロ演奏家になり、丁度この頃ソロでアルバムも発表した人です。麗しいとはまさにこれ、ですね。未だに彼女のアルバムのジャケに勝るジャズ・ギター作品はありません。根拠はありませんが(笑)断言します。


Mina feat. Franco Cerri / Corcovado (1967)

もちろんミーナ嬢も麗しいんですが、今回は横で小粋なギターを弾いてるオッサンにご注目願います。ジョビン作「コルコヴァード」はミーナの定番曲のひとつですが、ここではフランコ・チェリというギタリストと共演しています。チェリ氏はイタリアのNo.1ギタリストですが、今も御年85にしてバリバリお元気です(近年はベーシストの息子さんと共演活動してるようです)。ここで彼が弾いているギターは、一目で西ドイツ(当時)製の安物だ、と判るのですが、それにしても音といい演奏といい、素晴らしい、のひと言です。



Baden Powell / Tristeza (1971)

 バーデン・パウエルはいわゆる「ジャズ・ギター」に分類される人ではないかもしれませんが、当方の持ってる「ジャズ・ギタリスト名鑑」という洋書でも彼は(ジャンゴやウェスを差し置いて)超特別扱いされてしまうような「誰が見ても天才」という部類なんでしょうね。当方のようなボンクラ・ギタリストでも、動画の「TRISTEZA」が名演だということは判ります。が、このバンドのリズムがホントに合ってるのかどうか、それさえ判ってはいません(近年DVDで出た70年ドイツでのライヴ映像では、もう少しリズムも判りやすくなってますが)。我々は割と簡単に「サンバのリズム」等と口にしがちですが、このリズムは一体どうなってんの?といまだに悩み続けています。スゴスギです。


John Pizzarelli / I Got Rhythm (2000)

 最後にスウィングの定番曲を。今やお父さん(バッキー・ピザレリ)を差し置いてスター・ギタリストになったジョン・ピザレリ。7弦ギター使いとしてもお父さんやジョージ・ヴァン・エプス師匠を抜いた感さえありますが、今回の動画の、0:28のところでの彼の不穏な仕草にご注目。何と彼はピックを口の中に入れながら歌っていたんですね。で、ソロになるとそれを吐き出しプレイ続行。くだらないんですけど、とても凡人には思いもつかないスキル(笑)を披露しています。
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