[桜井順×古川タク]
初音盤化曲を多数含む「ネスカフェCM大全」が発売
TVエイジ・シリーズ最新作は〈ネスカフェ〉の歴代CMソングを集めた企画盤。二○○四年に発売された『香り豊かなひととき〜ザ・コレクション・オブ・ネスカフェCM〜』の増補改訂盤的な側面もある企画で、同作収録曲はもとより今回が初収録となる未音盤化曲まで、厳選を重ねた全
二十五曲で構成した。 収録にあたっては、現存する音源のなかから「ゴールドブレンド」「エクセラ」「ワールドワイドで歌われた楽曲」「初期のCM曲」「キャンペーンソング」といったカテゴリで分け、最後にボーナストラックを配する形をとっている。無論、諸般の事情で収録が叶わな
かった楽曲やアーティストの歌唱も多々あるが、本作には現時点で可能な限りの楽曲を集めた。 〈ネスカフェ〉のCMソングは、伊集加代のスキャットでお馴染み八木正生作曲「めざめ」を筆頭に、ロバータ・フラック「やさしく歌って」、ダイアナ・ロスによる映画『マホガニー物語』(七五年)の主題曲「マホガニーのテーマ」、映画『追憶』(七三年)でバーブラ・ストライサンドが歌った主題曲の〈ネスカフェ〉ヴァージョンなど印象に残る楽曲が多いが、今回どうしても収録したかったのが、林哲司作曲「テイスト・ザ・ラブ」、そしてロジャー・ニコルス作曲の「ワン・ワールド・オブ・ネスカフェ」の二曲だ。いずれもCX系「夜のヒットスタジオ」の番組中に頻繁に流れた楽曲なので、記憶
している読者も多いだろう。ちなみに「テイスト・ザ・ラブ」について作曲者である林哲司氏に創作秘話をうかがったところ「この曲には、初めて使ったコード進行があり(一~二小節めに流れるところ)、これはボクが七十年代半ば、バート・バカラックが書いた日立のCMソングをLAでアレンジした時に学んだものです(彼のデモをスキャットしていたのが、なんとペイジズのリチャード・ペイジでした)。そんなことでとても記憶に残る作品で、ソフトロックやMORの流れを継いでいる作品だと思います」と述懐してくれた。 一方、後者は日本からの発注を受けてロジャーがCM用に書き下ろした曲で、当時「ワン・ワールド・オブ・ネスカフェ」をキャンペーン・スローガンに、アジア圏ではロジャーの曲を、
ヨーロッパ諸国では別の作家による楽曲で広告展開していたようだ。 今回、本作の選曲に際してロジャー自身に音源確認を依頼したところ、複数のCMサイズが発見されたが、諸般の事情で収録は見送り。最終的に歌詞を「ワン・ワールド・オブ・ユー・アンド・ミー」に書き改めたヴァージョンを収録した。 なお現在発売中の﹁レコ︱ド・コレクタ︱ズ﹂誌における筆者の連載「ブラウン管のなかの音楽職人たち」では、CM制作会社プロダクションNOVAの代表である小池哲夫さんに伺った本CD収録曲の制作秘話を紹介している。併せてご覧頂きたい。 ︵濱田高志=アンソロジスト︶ ●監修・濱田高志 発売・キングレコ︱ド 税込定価¥二五○○ 発売中
あなたはマドンナのアルバムを何枚持っていますか?
ディスク・コレクション『ガール・ポップ』発売によせて
ウチには16枚ありました。全部アナログですが(笑)。 「ガール・ポップ」のディスク・ガイドを作りませんか、と言われたのは昨年の冬でした。その本が、3月中旬にシンコーミュージックから発売になります。 さて、本書が他のガイド本と決定的に異なる点として、「これがガール・ポップだ!」ではなく「これもガール・ポップだよね」という視点での盤選定が行なわれていることが挙げられ
ます。ガール・ポップとはなんぞや、という問いには、監修者として一応の答えを用意してみましたが、それを文章にしたら1万字ほど使うハメになりました。ここで再録するのは不可能なので、本書のまえがき/あとがきをご覧いただくしかないのですが、要するにスパっと定義できるモンではないよ、ということはご理解いただけると助かります。 先ほど「視点」と書きましたが、もうひとつ考えた
のが「支点」です。当然ながら、監修者が勝手にアレもコレも載せる、という方法だけではバランスを欠きます。シーソーのように一個の支点だけで左右のバランスを取る、ということもできるのかもしれませんが、「ガール・ポップ」等という複雑に入り組んだカテゴリーの場合には大いなる無理が生じます。そこで書籍としてのバランスを取る為に「支点」を複数用意することにしたわけです。 本書では「てりとりぃ」でお馴染みの濱田高志・鈴木啓之・関根敏也・宮治淳一・麻生雅人ほか多くの執筆陣にご協力いただき、多くの「視点/支点」を用意しました。たとえばブラジリアン・ポップという視点を踏まえて盤を掲載するために、麻生氏に「支点」もお願いした、ということです。同様に、五〇年代のヴ
ォーカルものも「ガール・ポップだよね」という視点を踏まえるために、鈴木啓之氏にその時代の殆どの盤選定とコラム文も御願いしました。お願い/発注した人間が言うのもナンですが、鈴木氏のコラムは「まさに我が意を得たり」というドンズバの解説文になっています。結果的に、万人が満足できるバランスを生んだかどうかは本を読んでご判断いただくしかありませんが、とりあえずこんな本が出来上がりました。んー、ホントはデザインもやりたかったんですが。 ディスク・ガイドの編集って難しい作業だ、と痛感したのもつかの間、既に本書の姉妹編とも言えそうな「日本の女性アイドル」のディスク・ガイド本という企画にも現在着手しています。そちらもお楽しみに。 (大久達朗=デザイナー)
てりとりぃアーカイヴ(初出:月刊てりとりぃ#17 平成23年7月23日号)
ここだけの話
日本のスーパーコンピューターが世界ランク1位をとってしまった。というと、かなりネガティブに聞こえるかもしれないが、べつに蓮舫議員のように2番でいいのではと思っているからではない。「京」と名づけられたそのコンピューターは将来的には1秒に1京回分の計算ができるそうで、とうとう人類は鉄の固まりに負けてしまうのではないかと、恐怖を感じているのである。もちろん、昔映画
で見たようなロボットに支配される世界も怖いのだが、当面の心配は「将棋」である。すでに人類はオセロやチェスではスーパーコンピューターにかなわなくなってしまった。スーパーコンピューターの猛威は着実に将棋の世界にも忍び寄っていて、数年前にはとうとうプロの女流棋士が敗北を喫してしまった。とはいえ男性と女性では実力にかなり差があるため、なんとか男性のプロたちは玉を守り続
けている。 将棋のすごさはその手の多さにある。9X9のます目で駒の奪い合い。そして捕虜となった駒たちは、今度は新たな大将のために果敢にかつての味方達に挑んでいく。つまり、コンピューターが予測しようにも指し手は限りなく、これまで人智の創造力が圧倒していたわけである。 6月22日に第69期将棋名人戦で4期ぶりに名人位に返り咲いた森内俊之九段は16歳でプロになり現役25年目。31歳での初タイトルは遅いほうだったが、何度も苦杯をなめてたどり着いた境地は「完璧を目指そうという気持ちを捨てる」ことだったという。そうなのだ、人間は完璧を目指し機械的にすべての手を読むのではなく、取捨選択する判断力がすばらしいのだ、と感動したのもつかの間、最近は
スーパーコンピューターに革新的なメカニズムのデータも加えられていて、駒に評価をつけ、無駄を省くことを覚えだしているという。さらに、定石も何万通りも覚え、いらない手はそもそも読まない能力までついているそうで、もう玉を奪われるのも時間の問題なのかもしれない。それにしてもそんな余計なインプットをしたのも人間なわけで、自分の作った機械に去勢される恐怖を感じる、男とはなんて虚しい生き物なのか。 コンピューターの猛追に嘆いてばかりいても仕方ない、愚直に人類も成長していかなくては。 ここで朗報。将棋がだめでも、まだ我々には碁がある。19X19とます目が多いから、若干ではあるがまだ猶予がある。 ︵久保田智子=アナウンサー︶
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