1982年の名盤『AVALON』に収録された、哀愁漂うダンス・ポップ曲「MORE THAN THIS」。もちろん後期ロキシー・ミュージックを代表する曲のひとつではあるのですが、昨今の「MORE THAN THIS」ブーム、というのはさすがにロキシー・ファンからするとちょっと異常、と思わざるを得ません。いや決して否定的なわけではなくて、想像できなかったことなので唖然としてしまうワケです。今回は、そんな「MORE THAN THIS」のバリエーションをご紹介。(2012年6月1日更新分/選・文=大久)
Charlie Hunter feat. Nora Jones / More Thans This (2001)
2001年、ブルーノートから発売されたチャーリー・ハンター(G)のアルバム『SONGS FROM THE ANALOG PLAYGROUND』は、カート・エリング等のゲスト・ボーカルをフィーチャーしたコンセプト・アルバムでした。インプレッションズ「MIGHTY MIGHTY」やニック・ドレイク「DAY IS DONE」といった面白いカヴァーも収録されていますが、中でも出色なのが、ボーカルにノラ・ジョーンズを迎えて録音されたロキシー「MORE THAN THIS」のカヴァーでしょう。
"Lost In Translation" (2003)
2003年、ソフィア・コッポラ監督で東京を舞台にしたちょっと風変わりな映画「ロスト・イン・トランスレーション」が制作されました。低予算のプチ・アダルト恋愛映画だったのですが、アメリカでこの映画は大ヒットを記録し、2003年の賞を総なめに。で、この映画の中で主人公のビル・マーレーがカラオケを歌うシーンがあるのですが、そこでヘッタクソ(笑)にも歌うのが「MORE THAN THIS」でした。もちろん演技でしょうが、もの凄くリアルな演出にみえて、おそらく吹き出してしまったのは当方だけではないように思うのですが。
Emmie / More Than This (1999)
上記映画以降だけでも(あのデボラ・ハリーの)ブロンディー、ミッシー・ヒギンズ、ロビン・ヒッチコック、ダムネット・ドイル(カナダのSSW)他多くのカヴァー・ヴァージョンが生まれています。そんな数多あるカヴァーの中でも最もヒットを記録したのは、実は上記映画よりも前にリリースされた、このエミーという女の子が歌ったハウス・ヴァージョンで、なんと1999年にチャート5位まで上昇しています。実は彼女のこのカヴァーは、プレイステーション用ゲーム「DANCING STAGE EURO MIX」(ダンスダンスレボリューションのEURO版)で採用されていた曲で、まさに「ロキシーなんか知らない」という新しい世代にウケた、というワケです。
*動画のリンク切れの場合はご容赦ください。
有名ミュージシャンが「自分が影響を受けた曲」を自ら集めて組んでみた、という英国のコンピ・シリーズ「UNDER THE INFLUENCE」というのがあります。その企画内容をいただこう、ていうわけじゃないんですが、また今年世界ツアーに出ることになったヴァン・ヘイレンを記念して、デイヴ・リー・ロス版「UNDER THE INFLUENCE」を勝手にやってみました。あ、勝手にとは申しましたが、実際に彼がカヴァーしたことのある曲ばかりです。それにしてもこういう曲をハードロック・バンドでやっちゃったワケですから、ダイヤモンド・デイヴ恐るべし、ですよね。(2012年6月8日更新分/選・文=大久)
Louis Prima / Just A Gigolo-I Ain't Got Nobody (1958)
大ヒットを記録したデイヴ・リー・ロスのソロ2枚目のシングルの元曲。「Just A Gigolo」はもともと1920年代に作曲された曲なのだそうで、オリジナルということにはなりませんが、ルイ・プリマがやったメドレー形式でそのまんまデイヴはカヴァーしています。動画は1958年にTV出演した時のルイ・プリマ。横でなんだか不機嫌そうにコーラスを重ねてる女性はキーリー・スミス、当時のルイ・プリマの奥さんです(61年に離婚)。「THE WILDEST」というのはプリマのニックネームですが、奥さんがムッツリしているのはその対比をわざと演出しているから、とのこと。
この動画は最近公式にアップされたモノですが、同曲の別な動画の再生回数を見てちょっとビックリしてしまいました(1000万回を優に越えてます)。シナトラの問答無用の代表曲なのでご存知の方も多い曲でしょう。デイヴ・リー・ロスは86年のソロ『EAT'EM AND SMILE』にてこの名曲のカヴァーを披露していますが、他にもアレサ、テンプテーションズ、ジェイムス・ブラウン、ボノ(U2)、ヴァン・モリソン等もこの曲を吹き込んでいます。
タイトルもそのままドンズバの、ダフト・パンク2001年の大ヒット曲のPVです。元々素性を露にしないフランス出身のフィルター・ハウス系ユニットではありますが、同曲のビデオ・クリップはわざわざ(メンバーが大ファンだという)松本零士本人に依頼し、新規のフル・アニメーションで作ったことも大きな話題となりました。この曲は1979年のジョージ・デュークの「I LOVE YOU MORE」というアーバン・ファンク曲をサンプリングして制作されています。
曲は97年に華原朋美が歌って大ヒットしたバラードのリメイク、ということになります。当方は個人的に初音ミク支持者ですが、正直この企画/曲をどう評価していいか今もって全くわかりません。好きでも嫌いでも、良い悪いでもなく、わからない、のです。この曲のクリエイターの方が初音ミクに恋をしたとは思えませんが、LOVE IS DESTRUCTIVE、ということなんでしょうか。