週刊てりとりぃ・コラボ企画動画[湯山玲央奈 × 江草啓太]
子供は自分の意思と気分で、どこでもどんな時でも歌える才能をもっています。伴奏を付けて下さった江草さんが「ハナモゲラ」とおっしゃっているように、外国コトバの様な発声を繰り返して、一番気持ちのいい自分自身になりきって身体から溢れてくる声を愉しんでいます。「ハナモゲラ」って調べると、頭で聴いて理解するのではなく、心で感じる言語のことであーる。みたいに書いてありました。三歳の少女ですので普段は上手な日本語を話せますが、歌う時になると急に感じる言語に変身するのが面白い所です。写真は、江草さんの編曲を聴いた時に、少女が物語の中に迷い込む様な印象を受けてこんな風になりました。 ひとつめにひき続き、ふたつめのメロディも是非聴いてみてください。 (湯山玲央奈=フォトグラファー)
自主制作マンガ界の呟ける巨峰
映画「ル・アーヴルの靴みがき」に「これは凄い」と思った場面があって、それは黒人の少年が留守番をしているとき、ふとレコードを手にしてステレオにかける。音楽が流れ、少年は立ったまま微動だにせずステレオを見ている。けっこう見ている。凄そうじゃないでしょ、でもこれがこの映画の名場面なんだ。何でもなさの塊が心地よくそこにある、あの感じ。 関根美有というマンガ家、知ってますか。僕、知らな
かった。でも、今は知ってる。「ガロ」の流れをひくマンガ誌「アックス」(青林工藝舎)の新人賞は、賞金よりも発表に重きを置く強者の集う数少ない場所。最近、審査員の林静一らに賞賛され、第14回新人賞を獲ったのが関根美有。そこで知った。受賞作「ユングフラウヨッホ」は、元高校球児のじいちゃんと、編み物好きのばあちゃん、それを見つめる孫の呟きに、苦さと幸福感があり、読後立ち上がった足で、現在自主
サークル(エベレストライブラリ)からリリースされている氏の著作を買い集めに走ったのでした。ここで、おいおい関根美有は、ゼロ年代初頭、「H」誌(伏字に非ず)や「コミックH」誌(伏字に非ず)などで、鼻の形が「H」の主人公の好短篇を描いてた作家だぜ、とか言われましても、当時ひとつの単行本も流通できなかった大人が悪いんでしょ。自選初期作品集『ずばぬけたバラ』(2011年)でその初々しさに今さら触れ、よって最近の作品に加わった厚みも再認識できた。イラストレーターとしても実力のある関根氏、例えは悪いがオシャレな女性雑誌にお似合いな、シンプルな描線でとぼけた作風。それが何でもなさを強調し、持ち前の奇想とストーリーテリングでダイナミックにひっくり返すかと思いきや、
それほどひっくり返さない。ダイナミックな何でもなさの凄み。語り口はいつもかすかな呟き。そこにさりげない箴言が放りこまれている。芸術家の評伝調の力作『ママール・フ・モモールなりに』(2010年)が現在の代表作と言えるのだろう。でも、個人的には、少女のように繊細な不細工中年・棚浜さんが、実家から届いたリンゴを配るという、その行為をめぐる機微を、鉛筆で描ききって、中綴じホチキスで止めた作品『くばりんご』(2011年)が、もう素晴らしい。甘酸っぱい。リンゴを齧って「なにこれ、積極的!グイグイくる!」って台詞のユーモアとリンゴ愛。ああ、そんなリンゴ大好き。精力的に新作を描いている、知る人ぞ知る大者、今が登り頃ですよ。 (足立守正=マンガ愛好家)
歌手生活60周年記念CDボックスで聴く、ペギー葉山の煌めく歌世界
昭和27年のデビュー以来、一貫してキングレコードに在籍して歌い続けているペギー葉山が、今年歌手生活60周年を迎えた。ジャズ、ポップス、叙情歌、歌謡曲からテレビ主題歌に至るまで、そのレパートリーは多岐に亘り、世代によって歌手・ペギー葉山に抱くイメージは異なるだろう。戦後の復興期、進駐軍のクラブで歌っていた焼け跡ジャズに始まり、ポップスや映画音楽のカヴァー、そして「南国土佐を後にして」をはじめとするオリジナル・
ヒットの数々…。少し遅れてきた世代であれば、映画『サウンド・オブ・ミュージック』の「ドレミの歌」。これはペギー自身が訳詞したことで知られるお馴染みのナンバーである。さらに後の年代ならば、特撮テレビ番組『ウルトラマンタロウ』でウルトラの母(もちろん人間時の姿)に扮し、挿入歌「ウルトラ母のバラード」も吹き込んだのが印象的ではないだろうか。御主人が『帰ってきたウルトラマン』で隊長役を演じた根上淳だったから、あの頃
の子供たちにとっては夫婦揃って親しみやすい存在であったのだ。 そんな幅広い歌手活動の全貌が集約されているのが、今回60周年を記念して出された2つのボックス・セットである。Ⅰは<オリジナル・ヒット、叙情歌篇>と題して、ターニング・ポイントとなった「南国土佐を後にして」をはじめ、「爪」「学生時代」などの平岡精二による傑作、加山雄三(=弾厚作)が作曲した「キャンパス通り」といったレア曲も聴ける。33年に初めて「爪」を吹き込んだ際、彼女が平岡に「この曲はどう歌えば良いのですか?」と尋ねたところ、「歌うんじゃない、この歌は〝語る〟んだ」と言われたという話は誠に興味深い。以来4回レコーディングしたそうだが、「一番最近の吹き込みでようやく自分の歌
に出来た気がする」と語るペギーに、歌い手としての業の深さを感じずにはいられない。凄いことである。 主題歌系の巻には「調子をそろえてクリック・クリック・クリック」など、NHK『みんなのうた』で紹介された諸作品に、もちろん「ウルトラ母のバラード」も。実はこの曲、番組では別歌手によるヴァージョンが使われており、ペギーのレコードは厳密にはカヴァーということになるのだが、役柄に合わせてちゃんと吹き込みをしてくれた心意気を買いたい。そしてここでは叙情歌の類いがまた素晴らしい。安定した歌唱力に支えられた温かみのある歌声に思わず聴き惚れてしまうことは必至。 Ⅱの<洋楽&ポピュラー篇>はデビュー曲「ドミノ」から、シャンソンにカンツォーネ、アメリカン・ポッ
プス、映画音楽と、ポピュラー・シンガーとして全くブレのないペギーの独壇場だ。シンフォニック・ジャズバンドの名門、渡辺弘とスター・ダスターズの専属歌手だった経歴はダテじゃない。余りにも有名なミュージカル『南太平洋』のナンバー「魅惑の宵」や、映画『80日間世界一周』の同
名主題歌カヴァーなどのポピュラー・ヒットを日本人で最も鮮やかに歌いこなした女性歌手では、ペギーと江利チエミが双璧だったと思う。「センチメンタル・ジャーニー」の見事な歌唱で〝日本のドリス・デイ〟とも呼ばれたペギーの素晴らしい作品集を、当時を知る世代の方だけでなく、もっと多くの人々に聴いて欲しいと願うばかり。先ごろ、伊藤エミの残念な訃報が届いたばかりだが、ザ・ピーナッツのディレクターもペギーを見出したキングレコードの牧野剛であったことを付け加えておく。何より現役のペギー葉山には、江利チエミやザ・ピーナッツの分まで、これからもまだまだ歌の旅を続けていただきたいものである。 (鈴木啓之=アーカイヴァー) 写真提供=キングレコード
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