ロジャー・ニコルスからのメッセージ
ロジャーからのメッセージ第二弾はアルバム録音中のスタジオにて収録した。今回はマレイとメリンダを交えたSCOF三人揃っての登場だ。 冒頭の歌声を聴いてお判りの通り、今回彼らはカーペンターズの歌唱でお馴染み「愛のプレリュード」をカヴァーしている。そもそも前作「フル・サークル」完成後に筆者が最初にロジャーにリクエストしたのが、次のアルバムでは是非この曲を録音して欲しい、ということだった。次いで、デモ録音のみで公式に録音されることなく終わった「サムシング・フロム・パラダイス」。この曲を収めたアセテート盤を90年代半ばに手に入れるやすぐさまロジャーにコピーを送って確認したところ、なんと歌っているのはSCOFの三人であることが判明。しかも
「すっかり忘れていたけど、ひょっとするとこれは僕らが一番最初に録音したデモかも知れない」とのことだった。「フル・サークル」制作時に録音候補曲にリストアップしていたが、結局は選から漏れ、この度ようやく録音する運びとなった。過去に「てりとりぃ」同人の宮治淳一さんが店主を務めるお店〈ブランディン〉のイベントや、筆者がパーソナリティを務める番組で紹介したことがあるが、さほど知られていない曲だと思う。 そのほか新曲もたっぷり取り揃えた全12曲を収録の予定(当初もう1曲録音を予定していたが、歌詞の手直しが間に合わず、今回は収録を見送った)。なお動画はこの先も随時アップするので、ご期待のほど。 ︵濱田高志=アンソロジスト︶
ミシェル・ルグラン来日記念特集
ミシェル・ルグランと私【1】
今週より四週に渡って今年傘寿を迎えた映画音楽界の巨匠ミシェル・ルグランを特集する。 「月刊てりとりぃ」同様、「週刊てりとりぃ」ではこれまで音楽ネタを中心に雑多なテーマで記事を紹介してきたが、たまには特別編成を組むのも良いだろう。毎月とはいかないが、今後も時おり特定の事柄をテーマに特集を組んでいこうと思っている。ちなみに十一
月はロジャー・ニコルス特集を組む予定だ。 さて、今回の特集では、「てりとりぃ」同人のなかからルグラン好きを自認する方を中心に毎週三人の寄稿を紹介してゆく。一週目となる今週は、ルグランとは公私ともに付き合いのある村井邦彦さん、そして「月刊」でお馴染み森遊机さん、麻生雅人さんの随筆を掲載する。 (文=編集部)
ミシェル・ルグランの音楽の魅力は、クラシック音楽とジャズ、そしてフランスのポピュラー音楽が渾然一体となったところにある。流麗なメロディと色彩り鮮やかなハーモニーがしばしば起こる転調によって異なった表情を表す。 僕が一番聴き込んだルグランのレコードは「ミシェル・ルグラン シャンテ」と「ロシュフォールの恋人たち オーケストラ・ヴァージョン」の2枚のLPで、共にフランスのフィリップ
スレコードから60年代に発売になった。前者はルグランの歌のアルバムで、ナナ・ムスクーリとのデュエットが中に数曲入っている。後者は映画の中の曲を新たにオーケストラ用に編曲し直したものだ。 歌のほうのアルバムの中に「リラのワルツ」というルグランのごく初期のヒットソングが入っている。ルグランの声は個性的で好きな人も嫌いな人もいるが、僕は大好きだ。同じメロディが転調によって表情を変
楽団という、当時としては異例、破格の豪華さである。海外の大物コンポーザーが邦画の音楽を手がけた例としては、ニーノ・ロータの『陽は沈み 陽は昇る』、モーリス・ジャール『首都消失』『落陽』、フランシス・レイ『ラッコ物語』などがあるが、われらがルグランにはもう一本、『ベルサイユのばら』(79年)もある。『火の鳥』では、作曲依頼にあたってスタッフが、物語の仏訳と阿蘇山の写真をフランスに送ったそうだ。 さて、そうして出来た『火の鳥』のテーマ曲。壮麗でスケール感もあり、本当に素晴らしい。4/4拍子の主旋律をベースに、ストリングスが細かいリズムを刻み、変調に変調が重なる……という複雑な構造の曲なのだが、おおらかでスローなメロディと、緊迫し
た速いテンポの助奏が交互に掛け合い高まっていくアレンジの妙を、文字で書くのはむずかしい。 公開当時、村井氏のお膝元のアルファから出たサントラLPでは、A面全部が一つの組曲になっており、映画では、オーニングタイトルに組曲の中盤の部分を使い、全編の要所要所にスコアを散りばめていた。市川作品のトレードマークである鍵の手状にレイアウトされた巨大明朝体のタイトルに、緑の草原の映像が細かくカットインし、ルグランの曲が高鳴ると、その流麗な美しさに恍惚とした気
分になる。 ところが残念なことに、同作品のサントラはCD化されておらず、映画本編にいたっては、DVDはおろか、一度もビデオが出ていない。未来永劫ありえないと諦めていた『黒部の太陽』DVD化の報を聞くにつけ、ああ、これで『火の鳥』は未ソフト化超大作として、邦画最後の秘宝になってしまったなあ……とため息が出る。 実は、同映画のソフト化は、(仕事人としての)わが永年の悲願なのである。それは、筆者が市川崑監督の研究をライフワークにしているという理由のほか、ビデオ会社在籍中に『日本万国博』『超高層のあけぼの』といった幻の超大作邦画の発掘ソフト化を行ってきたこともあり、大好きな『火の鳥』もぜひ!と、数年前から調査や交渉をコツ
出す、たぶんこのレコード以外で世界中のどこでも聴けないヴォーカリーズが、ピアノの饒舌な掛け合いを繰り広げるバーデン・パウエル&ヴィニシウス・ヂ・モライスの「カント・ヂ・オサーニャ~ビリンバウ」。バロック調で始まりながら格調はそのままにスウィング・ジャズ~ラテン・タッチに転じるミシェルの「アムール・アムール」。 ミシェル・ルグランと、ペドロ・パウロ・カストロ
・ネヴィスによる85年のサンパウロ録音作品は、異なる音楽同士の、とても素敵で美しく、豊かな邂逅を記録した、レコード冥利に尽きるレコードだ。プロデュースとアレンジはミシェル自ら手がけている。 ペドロ(通称ペペー)は、合衆国に渡り活躍しているオスカー・カストロ・ネヴィスの兄弟で、本作以外にも、79年に「コラサォン・ヴーガー」というリーダー作があるが、表舞台よりも、
エギベルト・ジスモンチのバックヴォーカルなど、裏方の仕事で知られるヴォーカリストだ。ペペーはジスモンチを介してクリスチャンヌと知り合いミシェルと出会ったのかもしれない。本作の表題「カント・ヘトラト」は、収録されているジスモンチの曲名でもある。また、本作を発売したポインテールというレーベルが、ヴォーカリーズの得意なフィロー・マシャードのホームグラウンド的レーベル、というのも気になる。後にフィローも、ミシェルと共演している。 だからミシェルとペペーは、本当は行きずりの関係などではないのだろう。その後の二人の交流に関してはしらないけれど、フェイスブックをみると、リオ生まれのペペーは、今はフランスに住んでいるようだ。 (麻生雅人=文筆業)
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映画秘宝EX「爆裂!アナーキー日本映画史 1980~2011」待望の発売!
ある時期、東京の中央線沿線にひときわ愛着を持っていて、そこから離れられない時期が長らくあった。「なんでそんなに愛着があるの?」と聞かれても上手く応えることは出来なかったのだけれど、質問者から「中央線沿線の街ってさあ、なんだかあの地面がヌルっとしたカンジ、床が濡れてるカンジが嫌いなんだよ」と言われたことがあり、あ、なるほど確かに、と自分でも膝を叩き強烈に納得した
ことがあった。 世界都市・東京のイメージとはかけ離れた、もうひとつの現実。『セーラー服と機関銃』や『ハイティーン・ブギ』といったカラリとドライな空気で賑わう82年の日本映画シーンの裏で、石井聰亙が制作・公開した『爆裂都市』にはその「ヌルっとした」もうひとつの現実が、ジメジメと描かれていた。つい先日も、ある人に「『爆裂都市』は日本映画史上最低の映画だ」と
指摘され、言った彼も言われた当方もお互いニヤリ、なんてこともあった。この場合の「史上最低の」は、褒め言葉だ、とお互い判っていたからだ。 今年の4月に発売された『鮮烈!アナーキー日本映画史1959〜1979』の姉妹編という位置づけになる、『爆裂!アナーキー日本映画史1980〜2011』が映画秘宝EX最新刊として発売された。前作の表紙を飾った加賀まりこの美しさも、もっともっと(世界的に)語られるべきだとは思うが、今回の『爆裂!』の表紙はセーラー服の満島ひかり(Folder5)が中指をおっ立てる至高のショット。オンナノコはいつも戦いを求めている、と言ったのが誰だったかすっかり忘れてしまったが、男性が口にする場合の「狂気」という言葉がいつ
も薄汚れた我欲マミレの概念だ、ということを強烈に思い知らされる。 タイトル通り、今回は80年代から現在までの公開作品の中から、「評価はB級、でもココロザシはA級」とも思えるカルトムービーを123本厳選して紹介。日本映画の表の歴史が興行収入ばかりで語られる機会が多いのとは対照的に、本書で紹介される日本映画の「裏歴史」は、「どこまでも走る」という無謀な制作者の野心ばかりがサンプリングされた、まさにアナーキーな「日本映画の本質」の一部だ。 アウトローとは、ルールを破るからアウトローなのではなくて、どう見られようと/どう思われようともそれしかできない、という宿命をすべて背負う覚悟がある人を指すのだ。 (大久達朗=デザイナー)公式HPは http://www.yosensha.co.jp/book/b103316.html 。
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