その完成度の高さに誰もが驚嘆したロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ(以下SCOF)、40年ぶりのセカンド・アルバム『フル・サークル』の発表から5年、待望のサード・アルバム『マイ・ハート・イズ・ホーム』が、この11月28日、日本で先行発売される。書
き下ろしの新作を中心に選び抜かれた全12曲。過去の作風にとらわれない意欲的なアレンジに挑みながらも、これぞロジャー・ニコルスといった美しいメロディーと清澄なコーラスが横溢する愛らしい一枚となった。 まずもって、アルバム冒頭を飾る「ショウ・ユア・ラヴ」に心を掴まれてしま
う。ロジャ-・ニコルスとマレイ&メリンダ・マクレオドの魅力的なユニゾン、そのブレンドの妙にあらためて感服。リフレインに配されたカウンターコーラスの厚さも圧巻だ。その高揚を引き継ぐ形で現れる「愛のプレリュード」で心は一気にノスタルジーの世界へ。カーペンターズが70年に残したヴァージョンで馴染み深い楽曲だが、SCOF名義での録音は初。ハイレゾな録音、音色ながら曰く言い難いレトロな聴感をもって耳に届くのは、やはり全編を覆う彼らの声の特質から来るものなのだろう。続く「ガール・ウィズ・ア・コンプリケイテッド・ハート」はメリンダがメインを務める陽溜まり感いっぱいのソフト・ボッサ。洒落た転調が特段に心地良い。以後も、ネスカフェのCMソングとして馴染み深い「ワ
ン・ワールド・オブ・ユー・アンド・ミー」、SCOFの変わらぬ友情を刻印したアルバム表題曲「マイ・ハート・イズ・ホーム」、60年代映画音楽のようなマイナーパートのメロディーに心惹かれる「ディス・イズ・ラヴ」等、メロディアスな楽曲が次々と繰り出される。分けても注目したいのがアルバム中盤に配された哀愁漂うボサノヴァ「サムシング・フロム・パラダイス」。68年のファースト・アルバムに収録されていても何ら違和感がないほどの完成度だ。そして、もう二曲。アルバム後半に用意された新機軸のスウィング・ジャズ・ナンバーが更なる高揚を連れて来る。緊迫したイントロから軽快に滑り出す「ムーン・イズ・レッド」のウキウキ感、カウント・ベイシーやフランク・シナトラの名前が飛び出
すイナセな「フィールズ・グッド・トゥ・ビー・バッド・アゲイン」の爽快感と言ったらない。過去と現在を繋ぎ、そしてSCOFのこれから先の展開をも予見させる重要な二曲と言っていいのだろう。 今年の冬はロジャー・ニコルスの音楽と共に過ごそう。90年代のあの日々のように。07年の冬のある日のように。忘れかけていたトキメキを、そこに見出せるはずだから。 (関根敏也=リヴル・アンシャンテ) ーーーーーーーーーーーー ●ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ「マイ・ハート・イズ・ホーム」発売・ビクターエンターテインメント/11月28日発売 ●次週「週刊てりとりぃ」にて、独占インタビュー動画を大公開。お楽しみに。
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僕のマイナー(短調)好きの原点、作曲家・菊池俊輔の音楽
「CDTV」での曲紹介風にメロディーを思い浮かべて読んでみて下さい。♪迫る~ショッカー 地獄のぐんだ~ん(『仮面ライダー』レッツゴー!! ライダーキック)、♪マ~ッハロッドで ブロロロロ~ブロロロロ~(『超人バロム・1』ぼくらのバロム1)、♪赤いシグナル 非常のサ~イン~(『電人ザボーガー』戦え! 電人ザボーガー)、♪す~なの嵐にかくさ~れた~(バビル2世)、
♪ガン ガン ガン ガン 若い命が 真~赤に燃えて~(『ゲッターロボ』ゲッターロボ!)、♪ぼくらは七つの星なのさ(『てんとう虫の歌』ぼくらきょうだいてんとう虫)、♪と~れないボールが あるものか~(『ドカベン』がんばれドカベン)、♪こんなこといいなっできたらいいなっ(『ドラえもん』ドラえもんのうた)、♪きったぞ~きたぞ ア~ラレッちゃん~(『Drスランプ アラ
レちゃん』ワイワイワールド)、♪や~まを飛~び~ 谷を越え~(忍者ハットリくん)……これらは全部、作曲家・菊池俊輔による作品です。 菊池俊輔はドラマでは『キイハンター』、『Gメン75』、『暴れん坊将軍』など星の数ほどのテレビ、映画の主題歌、テーマ曲、挿入歌、BGMを作ってきています。 幅広いジャンルのテレビや映画から生まれ、世代を超えて知られたメロディーを作り出した作曲家・菊池俊輔。この先生の名前を、アニソン、特撮ソング、サントラファンといった層だけでなく、もっと多くの人に知って頂きたいです。歌は知ってても、作曲した人の名前までは知らない方のほうが圧倒的に多いでしょう。 今回は作曲家・菊池俊輔
の50周年を記念して(厳密には昨年ですが、ここ数年、1年くらい時期がズレての記念アイテム発売は普通なのでお許し下さい)、膨大な楽曲群から特撮ヒーロー、ヒーローものではない子供向ドラマ、アニメーション、テレビドラマ、映画のジャンルごとにオープニング、エンディング各テーマを中心にまとめたCD10枚組の企画とディレクションをつとめさせて頂きました。 筆者は小学校入学の年に『仮面ライダー』誕生という絶好のタイミングな人生。学年を追うごとに、テレビを通して新しいヒーロー、新しい音楽と出会ってきました。毎日の生活でフツーにテレビを見るだけで、アツい歌やサウンドが聞こえてくるのです。その大多数が菊池俊輔による音楽だったと言っても過言ではありません。おかげでロックだ
| ろうがアイドルだろうが、メジャー(長調)で明るい曲調よりも、マイナー(短調)でハードな楽曲に心魅かれる音楽志向になってしまいました。これを確信したのが、80年代に後追いで出た『ゲッターロボ』のBGM集に封入されていた解説書に掲載の菊池俊輔コメントでした。一部、引用します。「津軽という民謡の土壌の中で生まれ育ったせ いか、私の描くメロディーは、マイナー(短調)なものが殆どです。それは私たちの持っている日本的な感情に根ざしているのだと思います。私の持っているマイナーのメロディーが、アニメの主人公たちの生きざまとどこか響きあうところがあるのではないでしょうか」 (高島幹雄=パッケージ・クリエイター) |
凡ての音楽ファン必読の大書『レコード・マンの世紀』で
日本流行歌史を学べ!
時代は今から160年前の歴史的事件、黒船来航に遡る。ペリー艦隊が運んできた「ミンストレル・ショー」は幕末の侍たちに、アメリカンポップスという文化を初めて体験させた。以来薩英戦争から明治維新を経て大正~昭和に至るまで、レコード産業に携わった人間たちの攻防が描かれた本書は、いわば日本における大衆音楽の歴史書である。 著者は98年に『カナリア戦史』を上梓した飯塚恆雄氏。音楽評論家の北中正和氏が「外資系レコード会社
の進出とレコード資本の国際化によって、歌謡曲が迫られた変化をたどった本」と絶賛した同書に続き、その後の研究成果が新たに著された大書は実に600ページを超えるボリューム。貴重な史料に基づく興味深いエピソードや的確な検証を展開しつつ、事実関係と人物対象が平易かつ簡潔な文章で綴られている。巷に溢れる独りよがりで難解な評論集などとは比べ物にならない、資料的価値も抜群の好著である。 欧米文化を貪欲に吸収す
る能力に長けた我々日本人が、最もその恩恵に浴しているもののひとつに音楽があるのは確か。外資系レコード会社の進出は、日本の流行歌の進化に大きな変革をもたらす。黒船到来と薩英戦争における英国軍楽隊が綴られた前史を踏まえた上で、第二部の「ディスク・レコード開化期」に突入すると、その筆致は俄然活気を増す。 和製ポップス黎明期の重要人物・島村抱月、そして中山晋平、野口雨情、西條八十ら詩人の台頭。さらに作曲家・古賀政男と服部良一が登場するに及んで、いよいよ流行歌の歴史に実感が湧き、文章に釘付けになる。戦後へと移行する第三部では、コロムビア、ビクターの老舗メーカー2トップを中心に、クラウン騒動の真実、URCレコード発足やCBS・ソニー誕生の
経緯にも話は及ぶ。終章ではやはり、昭和の終焉と共に世を去った美空ひばりの功績が綴られてフィナーレとなる。 音楽愛好を窮めてゆくと、アーティストから作家へと興味の対象は拡がり、その目はさらに作り手である製作者たちへも向いてゆくものである。そんなコアな音楽ファンにとって堪らなく面白い読み物であることはもちろんだが、本書に登場する人物たちの個性と熱気はいわゆるマニアックな視点からでなくとも魅力に溢れていることだろう。さらに言えば、今音楽産業に従事している次世代を担う人たちにこそ、本書を熟読して欲しいと願うばかりだ。〝温故知新〟はいつの時代にも普遍的な言葉であるはずだから。 (鈴木啓之=アーカイヴァー)『レコード・マンの世紀 〈黒船来航から、ひばり絶唱まで…〉』飯塚恆雄・著/愛育社・刊/定価3200円+税/発売中
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