[桜井順×古川タク]
音の魔術師~マリア・シュナイダー・オーケストラ初来日
日本で「音の魔術師」といえば作曲家の冨田勲氏。でも昔からジャズの世界ではギル・エヴァンスを形容する言葉として使われます。ギル・エヴァンスは、50年代後半から60年代前半、ジャズの帝王マイルス・デイヴィスとのコラボレーションで知られる作編曲家、バンド・リーダー。ギルは残念ながらもうこの世にはいませんが、彼の最後の弟子と言われ、その音楽的遺伝
子と精神を受け継ぐNYで活動する女性作編曲家がいます。 彼女の名前はマリア・シュナイダー。大学卒業後の80年代前半、ギル・エヴァンスのアシスタントを務め、92年、自費を投じてギルから学んだ音楽的成果を作品にした「エヴァネッセンス」を録音、その後自らのオーケストラを結成、2007までに6枚のアルバムをリリース、現在全ての作品は
ウェブサイト通販専門の音楽レーベル「ArtistShare」から購入することが出来ます。ただ彼女の音楽は、決してインディペンデントなものではありません。04年の『コンサート・イン・ザ・ガーデン』が自主制作作品として初めてグラミー賞ベスト・ラージ・ジャズ・アンサンブル・レコーディング・アルバムを受賞、続く07年の最新作『スカイ・ブルー』(写真右)の中の楽曲「セルリアン・スカイ」が、同ベスト・インストゥルメンタル・コンポジションを受賞、世界の音楽シーンから「現
代最高のジャズ・オーケストラ」と称される存在になっています。 彼女の音楽を言葉で表現すれば、色彩的で映像的。管楽器のアンサンブルがスウィングする、いわゆる一般的なジャズ・オーケストラとは違います。また様々なインスピレーションが彼女のオリジナル曲の源泉。メキシコの詩人オクタヴィオ・パズの詩から発想した「コンサート・イン・ザ・ガーデン」、趣味の一つであるバード・ウォッチングから生まれた「セルリアン・スカイ」など、まるで良質の映画音楽のスコアの様。特にグラミー賞を受賞した「セルリアン・スカイ」は楽器奏者全員で鳥の鳴き声を演奏(!)、鳥たちが大空を飛び回る幻想的な世界を表現しています。彼女はステージでは指揮者として登場するので楽器を演奏す
| るわけではありません。その姿は華麗でセクシー、まさに音の魔術師。 そんなマリア・シュナイダー・オーケストラが12月に初来日、BLUE NOTE TOKYOでコンサートを行います。それもNYで活動している最高のメンバーを連れての来日。日 本で彼女のオーケストラを観ることが出来るのは本当に奇跡です。決して2度目があるとは思っていけません。ぜひこの機会に華麗な音の魔術師マリア・シュナイダーの世界を体験してください。 (土屋光弘=ラジオ番組制作者) |
ウチの本棚
[不定期リレー・コラム]第9回:加勢美佐緒の本棚
長年暮らした実家から、高田馬場で一人暮らしを始めて半年あまり。人ひとりがやっと寝起きができる広さしかなく、服や本など身の回りのものは、自分が本当に気に入った最低限のものだけを置こうと決めた。……のだが、やはりモノは増えていく。特に、本は捨てられないものだ。 自分で買った本のほか、友人・知人から頂いたものも、どんどん溜まる。 「今度、ヒマができたら
じっくりと読もう」と思うのだが、いつかの時などなかなか来ない。夜寝る前などにパラパラとページをめくり、拾い読みをしている。 自宅から持ってきた本のほとんどは、何度も読み返した愛着のあるものばかり。それらの一部を紹介したい。 まずはじめに、日本聖書協会が発行する『the bible』。その名のとおり聖書だが、片手で収まるキューブ型の装丁がとても洒落ている。一目惚れして、
衝動買いした。 そのほか、私の蔵書で重要な位置を占めるのが、「夢野久作」「久生十蘭」「中井英夫」「澁澤龍彦」などの癖のある一連の作家たちの単行本や文庫だ。 社会思想社から出版された教養文庫の「久生十蘭・夢野久作傑作選」は、30年以上も前に出版されたものだが、何度読んでも新たな発見がある。中井英夫の『虚無への供物』も、毎年、年末休暇に必ず精読する。ところで、知人が生前の中井を担当したという某編集者だが「彼は非常に人当たりがよい人で、決して気難しいほうではなかった」とのこと。しかし、晩年は食べるものにも困るような困窮ぶりで、「生活のためではなく、自分の理想に忠実な作品を書くだけだった」と振り返る。 「アサヒグラフ」で連載
された團伊玖磨氏の「パイプのけむり」シリーズも愛蔵の本だ。カバーが本体から5ミリくらいマチをとっており、しかもカバーが薄い紙なので、本を立てるとその重みに耐えきれずカバーが痛む。なので、本を横にして積み上げ、日焼けを防ぐためにクローゼットにしまい込んでいる。 「パイプのけむり」は、
クラシック作曲家である團氏の、芸術家らしい鋭い目線とユーモアに満ちたエッセイ集なのだが、まだ青年のころから逝去される直前まで続いた超人気シリーズ。私が所有しているのは30冊弱で、購入漏れのタイトルを、少しずつ買いそろえるのも、楽しみのひとつである。 (加勢美佐緒=新聞社勤務)
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