てりとりぃ放送局アーカイヴ(2013年5月24日〜2013年6月7日)

 「70年代。あの頃のロンドンって、3ヶ月ボーっとしてたら、すっかり音楽シーンから取り残された」のだそうです。これは日本を代表するギタリストが、日本を代表するヴォーカリストと「こないだもそんな話で盛り上がってね」といって教えてくれたエピソードです。当時は「音楽の怠慢」が決して許されなかった時代だ、とのこと。たしかに大物ミュージシャンて、新しいモノ好きですもんね。というわけで、デモンストレーション動画、第3弾です。今回は「大物が新しい機材にチャレンジしてみた」の巻です。(2013年5月24日更新分/選・文=大久)


David Bowie in Hansa Studio (1977)

貴重映像です。76〜77年、ドイツのベルリンに移り住んだデヴィッド・ボウイが、ベルリンの壁のそばにあったスタジオ「ハンザ・スタジオ」の中で、アルバム『HEROES』収録のインスト曲「SENSE OF DOUBT」のフレーズをヒネリ出してる、という図。 たったひとりしかいないのに、スゲエ緊張感がこの映像からも伝わってきますよね。ボウイのおかげで同所は有名なスタジオとなり、以降一風堂が『REAL』(80年)で、加藤和彦が『うたかたのオペラ』(80年)でも録音に使用した場所です。
Robert Fripp / Frippertronics Demonstration (1979)

1979年、元キング・クリムゾンのロバート・フリップ先生がハマっていたものがふたつあります。ひとつはディスコ音楽(ロック界NO.1のカタブツで知られるフリップ先生ですが、NYのSTUDIO 54で夜な夜な踊り狂うフリップ先生の目撃談は多数残されています)、それと、この動画でもデモ演奏を披露している、2台のテープ・エコーのディレイ&逆再生をバックに即興演奏をする、フリッパートロニクスというシステムです。この動画は米TV番組「MIDNIGHT SPECIAL」に出演した時のライヴ演奏です。

Peter Gabriel demonstrates Fairlight CMI (1982)

フランスのTV曲が密着取材で撮影した動画。ピーター・ガブリエル氏がフェアライトCMIを実際に使ってみた、という内容です。フェアライトのCMIというこの機材は、乱暴に言ってしまえば世界で初めてサンプリング音源を使ったシンセサイザー、というシロモノ(1980年発売)で、画面に向かってタッチペンで音色波形を実際に書き込む事もできる、という画期的な機材でした。さすがピーガブ先生、いきなりヘンテコな音を録音してて笑えますね。
Allan Holdsworth Interview and SynthAxe Performance

1986年、シンタックスという名前のヘンテコな楽器が開発されました。一見するとギターですが、今みると性能の悪い掃除機にしか見えません。簡単に言えばこれは「ギターと同じ感覚で操作できるシンセ・コントローラー」で、正直この機材を使いこなせたのはアラン・ホールズワースくらいしかいませんでした。賢明なギター・プレイヤーであれば「こんなの使うくらいなら鍵盤覚えたほうが早いよ」とすぐに気付いてしまう、という珍品ではありますが、今もアラホ・ファンには絶大な人気を誇るレア楽器です。
Michael Jackson visits Isao Tomita (1987)

オマケ動画。87年「BADツアー」にて来日したマイケル・ジャクソンが、冨田勲氏の自宅を訪問してモーグ・シンセをイジリ倒す、という動画で、この映像は当時日本テレビの密着ドキュメンタリー「マイケル・ジャクソン1440時間の全記録」のために撮影されました。「一緒に曲を…」というのはリップサービスの部類だと思いますが、なんといっても当時のマイケルはシンセ・サウンド・フリークでしたから、あり得ない話ではなかったんですよね。そんな事よりも当方は冨田氏のモジュラームーグに目がいってしまいますが。
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 「スターダスト」。これ以上のはねえだろ、というくらいスタンダード・ソングの王道中の王道曲ですよね。今回はその「スターダスト」の聴き比べなんですが、この曲が生まれてから、それほど時間が経っていない時期のモノに限って選んでみました。今では「ジャズ・バラードの定番」的に扱われますが、まだそんなカンジに受け止められる前のもの、です。よってシナトラもナタリー・コールも平井堅も出てきませんが、純粋にこの名曲のメロディーとアレンジをお楽しみいただければ、幸いです。(2013年5月31日更新分/選・文=大久)


Isham Jones / Star Dust (1930)

 「GEORGIA ON MY MIND」や「HEART AND SOUL」でも有名な作曲家、ホーギー・カーマイケルによって1927年に作曲された「STARDUST」。実はこの曲は彼が夜中星空の下を歩きながら元カノのことを思い浮かべて作曲した、という話が残されています。ったく(笑)。最初の録音は27年10月31日で、カーマイケル本人が友人等とスウィング調で録音したインストで、シングルのB面曲でした(Gennett 78, 6311-B)。ちょっと前までその音源はYoutubeにもあったんですが、今消えてしまったようなので、ここでは30年に録音されたアイシャム・ジョーンズによるセンチメンタルなスウィング版を。

Bing Crosby / Star Dust (1931)

 この曲に歌詞が付けられたのは、1929年。作曲家のカーマイケル自身のアイデアだったそうですが、作詞をしたのはミッチェル・パリッシュという人で、後に「ムーンライト・セレナーデ」にも歌詞を付けた人です。ヴォーカル曲としてこの「STARDSUT」を有名にしたのは、31年、最もスロウなバラードとしてこの曲を歌い上げたビング・クロスビーでした。この歌ヴァージョンが大ヒットしたことにより、以降「バラードの大定番」として数多のシンガーに取り上げられるようになりました。

Coleman Hawkins, Django Reinhardt, Glappelly / Stardust (1935)

 ジャンゴ・ラインハルトは生涯2度「STARDUST」を録音しています。コチラはちょうどパリに移住していた時期のコールマン・ホーキンス(SAX)とのセッションで残された35年5月2日録音ヴァージョン。個人的に、最も好きな「STARDUST」のヴァージョンはコレなのですが、ちょっと面白いのはピアノを担当しているのがあのステファン・グラッペリだ、ということでしょうか。ジャンゴは同年11月25日に、ガーネット・クラーク(P)とのセッションでも同曲を残しています。


Hoagy Carmichael / Star Dust (1942 / Decca)

 さて、メガ・ヒットとなった「STARDSUT」ですが、作曲者ホーギー・カーマイケルは33年にはピアノ・ソロ・バージョンを、そして42年に自ら歌をフィーチャーして再録音を残しています。よりスロウなバラード・アレンジで、しかも歌入りのヴァージョンで、というワケですね。元々NYのティンパン周辺の人でしたが、この頃は西海岸のLAに移り住み、ジャズ・クラブの箱バンでピアノを弾いていたそうです。この42年版では自ら歌と口笛も披露しています。それにしてもこの42年録音版、メチャ難しいメロディーに変わってますね。

美空ひばり / Stardust (1953)

 最後にオマケ。個人的に「STARDUST」と言えば「北野ファンクラブ」のOPを忘れることは出来ません。歌っていたのは美空ひばりで、番組では『ナット・キング・コールをしのんで ひばりジャズを歌う』に収録の65年録音版が採用されていましたが、こちらはその12年前、彼女が16歳の時に残したテイク。訳詩は藤浦洸、アレンジは馬渡誠一。ナット・キング・コールが歌った(57年)よりも先に取り上げていたことになりますね。

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 『MUSIC FROM BIG PINK』(68年)に収録された「THE WEIGHT」は、もちろんザ・バンドの代表曲ですが、翌年映画『イージーライダー』に使用されたことで広く知られるようになりました。「THE WEIGHT」は旅をする若者が、現実の社会に居場所がないことを思い知らされる、という曲で、そのテーマはそのまま映画『イージーライダー』にピッタリとフィットするものでした。歌詞中の「そろそろ潮時だ」の部分は、そのまま映画のクライマックス部分の「俺たちはしくじった」というセリフに重なりますよね。今回はその名曲「THE WEIGHT」の聴き比べ、です。(2013年6月7日更新分/選・文=大久)


The Weight on EASY RIDER (1969)

動画はその映画のシーンで、曲はザ・バンドが演奏するオリジナル、なんですが、2つの大きな問題が存在します。ひとつは、映画の尺にあわせるためにピッチを半音上げてテンポアップされたこと。そしてもうひとつは、(ザ・バンドが許可を出さなかったため)サントラ盤ではザ・スミスという別のバンドの演奏バージョンでこの曲が収録されたことです。っていうか、そんなコマケーことなんてどうでもいいんです。なんという美しい映像でしょうか。ちなみに映画『イージーライダー』は、ピーター・フォンダの会社が倒産し、版権不継承となったため現在パブリックドメイン扱いとなっています。

Aretha Franklin / The Weight (1970)

 「THE WEIGHT」はあっという間にアメリカを代表する曲になりました。数えきれない程のカヴァーが産まれていますが、こちらは69年録音のアレサ・フランクリン版。渋いスライド・ギターをカマしているのがデュアン・オールマンであることもよく知られていると思いますが、ゴスペル・マナーなアレンジもさすがアレサ。「THE WEIGHT」は68年にはジャッキー・デシャノンやステイプル・シンガーズが、69年にはスプリームスWITHテンプスが、また72年にはディオンヌ・ワーウィックもカヴァーを残しています。

竹野屋セントラルヒーティング / The Weight (1980)

既に知ってる人は知っている、という有名なプロジェクトですが、FMラジオの特番のために80年に結成された、竹内まりやの実家である旅館の屋号を冠したバンド「竹野屋セントラルヒーティング」。桑田圭佑(VO)、大森隆志(G)、ダディ竹千代(G)、世良公則(B)、竹内まりや(KEY/CHO)、そして山下達郎(DR)というメンバーでこの「THE WEIGHT」のカヴァーを録音しています。竹野屋はザ・ピーナッツ「恋のバカンス」のカヴァーも録音していて、そちらのほうがよく知られているかも。


Jimmy Page, Jack White & The Edge / The Weight (2009)

 以前もチラリと紹介した、ギターバカによるギターバカのための映画、『IT MIGHT GET LOUD』では、エンディングロールの場面でやっと3人のスターが共演を披露します。そこで選ばれた曲が「THE WEIGHT」だったというのがもの凄く意外でした。この3人とはあまり縁のない曲のような気もするので。即席セッションなので演奏は荒いですが、3人の自宅が拝見できたり、エッジの歌が聞けたり、とやはり興味深いエンドロールであることも間違いありません。


Bruce Springsteen & E Street Band / The Weight (Live 2012)

2012年の春、オリジナル・シンガーだったザ・バンドのレヴォン・ヘルムが亡くなりました。それを機に、ブルース・スプリングスティーンは自身のステージの1コーナーで彼に哀悼の意を込め「THE WEIGHT」を演奏するようになりました。ん、たしかに今この曲を歌い継ぐのは、アメリカでは彼がいちばんピッタリな気もしますね。「重荷」というタイトルの曲がアメリカを代表する曲になる、てのがまたアメリカらしいですが、それを引き受けたのが<ザ・ボス>だったというのも、宿命、でしょうか。

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