2013年6月7日(金)

ヒトコト劇場 #23
[桜井順×古川タク]








久しぶりだね、すみちゃん ~やまがたすみこ ライヴ・リポート

 「どーも、ご無沙汰してました!」
 そんな一言で幕を開けたやまがたすみこのライヴ『うれしいね、すみちゃん』。昨年10月リリースのCD『やまがたすみこCM WORKS』がきっかけとなり、CDの企画・監修者で本誌編集長である濱田高志氏の強力なプッシュもあって実現に至ったという。目黒の瀟洒なライヴレストラン「ブルースアレイ」は立見客も含んで満員の盛況ぶり。ソロライヴは2004

年以来、実に9年ぶりということで、この日を待ち侘びた大勢のファンが温かく見守る中、ショウはスタートした。
 1曲目はカーリー・サイモン79年のアルバム『スパイ』より、「ネヴァー・ビーン・ゴーン(ときめくままに)」のカヴァー。すかさず客席の様子を窺うと、皆が実に満足げな表情でステージを見つめている。それほどまでに昔と寸分変わらぬ、いやもしかすると昔以上に伸びやかで澄んだ高

音が会場を包む。2曲目からはオリジナルとなる。「雨の日曜日」はアルバム『サマーシェイド』に収録されている76年のナンバー。曲の終りに「シェルブールの雨傘」のメロディーが組み込まれたアレンジは心憎いばかり。MCをはさんで、時代はさらに遡り、74年のアルバム『虹』より、「ブルームーン」と「ホリデイ」が続けて披露されると、ステージと客席は自然と一体化し、やまがたも完全にペースを掴んだ様子。「楽しくなってきちゃった」という感想を思わずもらしたのはこの辺り? あるいはも

う少し後の方だったかもしれぬが、嬉しい台詞が聴けたのはたしかな事実である。
 75年のナンバー「日がな一日」をはさみつつ、コアなファンもきっと満足したであろう、コマソン・メドレーのコーナーに突入。この日、会場限定で先行発売された新たなコンピレーション・アルバム『すみこ レアリティーズ』に収録の「虹になりたい」もその中で歌われた。アニメ『南の虹のルーシー』の主題歌として知られる人気のナンバーだが、(親戚以外の)人前で披露したのは今回が初めての由。我々は貴重な場に居合わせたことになる。おなじみのイソジンCMソング「ただいまのあとは」のフル・ヴァージョンにも感激。コーナーのラストは前アルバム、ひいては今回のライヴのタイトルの素となった曲「うれしいね、サ

ッちゃん」で締め括られて一部が終了。和やかな雰囲気のまま30分間の休憩となった。
 第2部は本誌同人の川口法博氏の司会によるトークコーナーに始まる。ここでスペシャル・ゲストとして、「僕にまかせてください」などのヒットで知られる、クラフトの三井誠氏が登場。当時はクラフトとグレープ、やまがたが一緒にツアーへ出たこともあったことなど、思い出話に花が咲き、客席も含めてさながら同窓会の如きひととき。当時はメーカー専属の関係でクレジットされていないが、クラフトはアルバム『虹』などのバックにも参加していたそうだ。三井氏が送り出された後は、やまがたへの質問タイム。川口氏の軽妙な進行で客席もすっかり温まる楽しい時間となった。そのいい空気のまま後半戦へ突

入してゆく。改めてのメンバー紹介。ギター・小倉博和、パーカッション・三沢またろう、そしてもちろんキーボードは井上鑑という、何とも豪華なメンバーが顔を揃えた。
 やまがたのMCにもあったように、後半は井上鑑ワールドが存分に展開され、前半とはまた違った趣きの、さらに洗練された音世界が繰り広げられた。「ブナの木は揺れていた」「ぼんやり犬」など、04年のアルバム『歌が降りてくる』の収録曲を中心に、ますます冴え渡るやまがたのヴォーカルを堪能する一同であったが、無情にも終りの時間は近づいてくる。「トーチ/深い森と共に」で一旦幕を閉じた後、アンコールでは懐かしいデビュー曲「風に吹かれて行こう」を全員でシンギング。これには思わず涙腺がゆるんだ。我々で

やまがたすみこ
Sumiko "Rarities"
Theme&CM Songs



キュートな歌声でCMにも引っ張りだこのやまがたすみこ。CMソング集に続いてアニメ・ソングなど貴重音源ばかりを集めた作品集が登場。初音盤化、初CD化曲も収録した待望の作品集。
SOLID RECORDS / 6.19 ON SALE / 2,625yen(Tax Incl.)

さえそうだったのだから、長年のファン、ましてや本人の心境は計り知れないものがあった筈だ。素直に感動されられるシーンであった。さらに「夢色グライダー」「カム・ホーム・トゥ・ミー・ナウ」でライヴは惜しまれつつも終了。鳴り止まぬ拍手。会場を離れがたい様子のファンが多数見受けられた。
 本当にいいステージだった。ライヴの開催を固辞し続け、今回が最後と言っていたやまがたに、終演後心境の変化があったとすれば

本当の意味での大成功であろう。そして我々としてはそれを信じたい。常に傍らで温かく見守り続ける夫・井上鑑氏の真摯なサポートぶりが印象的で、プライベートだけでなく、音楽を通じても名パートナーという類稀なる幸福な関係を羨ましく思った。そしてこの連携をさらに見続けられることを願ってやまないのである。やまがたすみこは、まだまだ衆前で歌うべき現役シンガーなのだから。
(鈴木啓之=アーカイヴァー)



夜のこども

 私が生まれた東京の夜は作られた夜。都会から船に乗って弟の住む離れ島に行った夏の夜、車の中で寝た事があった。明るい昼間が夜を押して密度が上がるんじゃないかと不安になるほどに真っ暗だった。暗闇から虫たちが窓にぶつかり続けて窓など開けられなかった。すたん、すたん…と夜が歩いてくる様に少しずつ

陽が無くなって真っ暗になる頃には何か不気味なものに包まれているようだった。
 東京生活の夜といえば、子供たちがトイレに起きた時に怖がらないよう、眠る時もスタンドの灯りをつけたまま眠ってしまう。星をもっとよく見てみたいと部屋の灯りを消しても街灯やマンションの窓明かりがビカビカと邪魔する。普段、

真っ暗を味わう瞬間なんてお芝居を観にいった時の役者登場の前の暗転の時くらいじゃないか。本物の真っ暗闇には実際に動物や昆虫が蠢いているし、夜の海には得体の知れない生物が蠢いて真っ黒で重たい波がぼってりと力強く巨大な真っ暗闇を感じさせる。普段の私達は、灯りをそこら中に付けて知らないフリをしながらそういう本当の巨大なモノを意識しない様に気をつけている。
 先日、エジソンが晩年一番に果たしたかった事は死者と話すことのできる機械の研究だったと聞いた。研究途中で死者になったエジソンはどんなことを私たちに教えたかったのだろうか。もしエジソンが研究に成功し不思議な機械のボタンを押して死者と話せたならば、死者はわからないことの無邪気さと素晴らしさをも説

いてくれるのかもしれない。もしかしたら「私、死んでなんていないわよ」と笑われるかもしれない。それでもやっぱり私達はどこまでもわかろうとする。なんてわからずやなんだろう。だけどひとつ言える事は、昼も朝も何故眩しくて素敵なのかといえば、そんな暗闇を引きずっているからだってことなんだろうな。

 あらあら、もうこんな時間、子供達がバタバタと帰宅し泥だらけの身体をシャワーで流し合いながらケタケタ笑っている。やっと夕飯の支度が終って着替え終わった四人の子供達が食事している声を聴きながらお酒を一杯いただく。その後に窓を開けると冷たい空気が入ってくる。そうなるとみんなを誘って夜の散歩へ

出たくなる。彼らが夜道を歩いていると光に照らされたきらきらした目から、昼間より少しどきどき高鳴る気持が伝わってくる。
 ただいま。今夜も枕を少し高くしていつもの布団を抱きしめる。小さな灯りをつけて気づかぬうちに夢に落ちていく瞬間を待つ。偽物の夜は心地がいい。
(田村玲央奈=フォトグラファー)



『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』のルーツといえる傑作がついに復活

光速エスパー限定BOX
 

松本零士/A5判変形・単行本2冊・函入/
発行:小学館クリエイティブ/発売:小学館/定価:本体4,200円+税/発売中

▼1967年のTVドラマ『光速エスパー』の放映に合わせて集英社の「少年ブック」および「少年ジャンプ」に連載された松本零士によるコミカライズを当時のカラー扉絵を再現し収録した初のスタイルでの復刻である。TVドラマ版とは異なる重厚なSFストーリーは今もなお色褪せることなく、読者を松本ワールドへ引き込むだろう。

▼独裁者の出現によって壊滅状態のバシウト星を脱出した少年エスパーは、追跡者の攻撃を逃れ地球へと辿り着くが、重症を負ってしまう。運良く古代博士に命を助けられたエスパーは、名を“古代すすむ”に変え、7つの超能力を発動させる強化服を身にまとい、平和を脅かす魔の手から地球を守るため戦い抜く。



『いつか聴いた歌 和田誠 トーク&ライヴ』のお知らせ
 

2013年7月13日(土)@池袋コミュニティ・カレッジ

演奏=島健(ピアノ)、納浩一(ベース)、島田歌穂(ヴォーカル)
企画・プロデュース=濱田高志
構成&トーク=和田誠

お申込み方法:コミカレ会員の方5/20(月)から、一般の方は5/25(土)より受付。
+ご来店の場合:お申込み日の10:00より(月~土は10:00~19:00、日曜日~17:00)
+お電話(セゾンカードお持ちの方、または銀行振り込み):お申込日の13:00より
+Web(各種クレジットカード):お申込日の10:00より

詳細はリンクをご参照下さい。http://cul.7cn.co.jp/programs/program_635172.html