2013年8月30日(金)

来たれレコード女子!「レコジャケ天国 for Girls」

 音楽プロデューサーを生業としながら、趣味としての音楽も楽しむ粋人、〝グッチさん〟こと山口佳宏さんが新刊を上梓された。以前著されたジャケット集「ディスカバー・オブ・カバー」のセレクションを再現しつつ、半数以上が今回新たに紹介される品だという。昭和の魅力的なアナログレコードの世界が満喫できる楽しい本なのだ。
 物に対する愛情あふれる

やさしい文章を寄せているのは、自身のアンティークコレクションも披露している宇山あゆみさん。人形作家であり、「パンダとバンビ」「少女スタイル手帖」など昭和レトロに関する著書も多い。女性ならではの視点、殊にファッションに関する検証はさすがである。
 テーマは大きく二つに分かれる。前半は〝ヤングレディース〟の章。50~60年代のイージーリスニングの

レコードは、ジャケットに女性モデルを配した盤がやたらと多かった。秀麗なトップモードから、扇情的なヌードまで。大抵が外国人なのは、日本人の体型が欧米諸国に比して未発達であった証拠だろう。昔からのブロンド信仰は、なんだかんだいってもまだまだ茶髪が多い現在も息づいているし、流行がひと周りして今の観点から眺めてもお洒落だったりするのも面白い。フェロモン過剰なヌードジャケに対しては、「女性が積極的すぎるのもいけない」とピシャリ。グラフィックやフラワーがテーマの、美しさに吐息が漏れそうな頁もある。
 そして後半は〝キッズ〟の章。主となる童謡のレコードは決してマニアが犇めくジャンルではないのだが、こうして見せられると意識が変わるのではないか。ち

ょっと視点をずらせばこんなに魅力的な収集対象があるんだということを教えて

くれる、格好のお手本といえる。童心を擽るレコードは文化でありメルヘンなの

である。クリスマスやピクチャー盤の頁、さらには竹久夢二、武井武雄、藤城清治といった作家ものも紹介されており、美術館巡りのキャリアでは他の追随を許さないグッチさんの面目躍如といったところ。
 タイトルに「フォー・ガールズ」とある様に、全体的に女子力高めで、装丁・デザインもカワイさをベースにしている。ここはひとつ、女子のみなさまに是非とも手にとっていただきたい。何十年来、男性主導で続いてきたレコードコレクターの世界に一石を投じる画期的な一冊。「わたし、レコジャケ天国を読んでレコード集めだしたんです!」なんていう、能年玲奈みたいなキラキラした女のコが近い将来少なからず現れますように。
(鈴木啓之=アーカイヴァー)
●『レコジャケ天国 for Girls』山口佳宏・宇山あゆみ 著/新紀元社/本体1800円+税/発売中



ブラジル総合情報サイト「MEGA BRASIL」オープン!!

 「寿司があるのは当たり前。今度はイパネマ海岸に〝弁当屋〟が」「ミック・ジャガーがリオでロックフェス開催!?  ミックとブラジルのとの長くて深い関係とは!?」「ブラジルでジョン・レノン、マイケル・ジャクソン、ガンジーが共演!?」「ラーメン=ミョージョーというくらい浸透しているミョージョー・ブランド。でも日本のあの企業と

は無関係!?」「歌う神父の巨大教会/進出を発表していたユニクロ、GAPに遅れをとる」…。
 皆さんの興味を引く話題はあるだろうか? 7月下旬、ブラジル総合情報サイト「MEGA BRASIL」がオープンした。このサイトを運営するのは、ブラジル最大のテレビ放送網グローボの海外唯一のネット局アイピーシー・ワール

ドと、「日本アカデミー賞」公式サイトをはじめ、エンターテインメント・コンテンツやウェブサイトの企画・制作・運営企画・制作・運用、システム開発で実績のあるデジタルプラスだ。
 ブラジルといえば、2014年のサッカーW杯、2016年のリオ五輪に加え、2020年のサンパウロ万博(申請中)、2022年独立200周年と大型イベントが目白押しで国際的に注目が集まっている。
 加えて、直近では減速傾向を見せているものの中長期的には依然、好調な国内経済を背景に、近年、日本企業の進出も加速。経済面でも注目が高まっている。
 しかし。その割に、この地球の反対側にある国のことを、我々はあまりよく知らない。そこで、身近に、等身大のブラジルの姿を探るためにスタートしたのが

同サイトだ。
 扱う情報はビジネスからファッション、音楽、アート、サッカー、現地アンダーグラウンド情報、すっとこどっこいニュースまで、とにかくブラジルのことなら、なんでも。各専門家が最新情報を伝える。特に編集方針らしきものはなく、参加する書き手各々が、勝手に伝えたいことを伝える。
 一見まとまりがないように見えるかもしれないが、すべての記事にはブラジルラヴァーの書き手たちの想いが溢れて、その「ね、ブラジルってこんなに面白いでしょ」感で統一されるのではないか、と思う。
 なによりも、多彩な顔のブラジルが伝えられたら、と思う。そもそも、文化の多様性こそが、この国の最大の魅力なのだから。
(麻生雅人=MEGA BRASIL編集長)



Motor City Has Burned Out
米国音楽のダイナモ、デトロイト失速(前)

 去年2月、インディアナ州インディアナポリスで開催された、米プロ・フットボール、NFL優勝決定戦、第46回スーパーボウル。テレビ観戦した全米1億1千万人の視聴者の間では、白熱した試合展開とともに、ハーフタイムに放送された1本のCMが話題を集めた。2009年の倒産から再建途上のライバル企業、ゼネ

ラル・モーターズとともに本社を置く自動車産業の中心地デトロイトの、さらには疲弊したアメリカ全土の再起をうながす、クライスラーのCM。日々懸命に生きる市井の人々をとらえた映像に合わせ、クリント・イーストウッドが渋い声で語りかける。「後半戦はこれからだ」()
 それから、わずか1年半

足らずの先月18日、デトロイトは連邦破産法第9条を申請し、自治体として過去最大の財政破綻に陥った。報道によれば、長年にわたる工場の閉鎖・移転と人口減少で市の財政が悪化、警察など行政サービスの低下が更なる人口流出を招くという負の連鎖に苦しんでいるという。とくに治安悪化は深刻で、今年の殺人事件の発生件数は人口が10倍以上のニューヨークとほぼ同じ、パトカーが現場に到着するまでに要する時間は、全国平均の11分を大幅に上回る58分。ポール・バーホーベン監督の傑作『ロボコップ』の舞台となった近未来の犯罪都市デトロイトが、まさに現実のものとなってしまった。ちなみに、87年公開の同作の年代設定は2010年。すでに3年が経過しているが、幸い、まだ映画のように警察が民営化

されるには至っていない。
 ところで、イーストウッドがクライスラーのCMに起用されたのは、08年公開の主演作『グラン・トリノ』によるものだろう。自ら製作・監督したこの映画で、彼はデトロイトで隠居生活を送る、元フォードの自動車工を演じた。
 イーストウッドは、80年代にカリフォルニア州カーメルの市長を務めるなど、以前から政治活動に熱心なことでも知られている。有力な共和党員で、去年8月、フロリダ州タンパで行われた同党の全国大会では、舞台上、オバマ大統領が座っていると見立てた無人の椅子に問いかけるパフォーマンスで喝采を浴びた。ただ、共和党員ではあっても、イラク戦争やテロとの戦いに反対し、妊娠中絶と同性結婚を擁護するなど、リバタリアニズムという独自の主

張を掲げている。この辺りの一筋縄ではいかないところは、同じく彼の映画の魅力でもあって、『グラン・トリノ』もまた然り。一級品のエンタテインメントとして観る者を楽しませると同時に、さまざまな問いを投げかける。
 映画終盤、地元ギャングのアジトに丸腰で乗り込み、自らの命と引き換えに争いを終結させる主人公。私はそこに、日本国憲法第9条にも通じる反戦への意思を感じたが、イーストウッド自身、映画の設定と同じく朝鮮戦争の従軍経験があると知れば、あながち的外れとも言えないだろう。改憲論議が喧しい今こそ、ぜひ再見したい映画だ。(続く)
(吉住公男=ラジオ番組制作)
●ジャケ写はクリント・イーストウッド「恋のルール」(62年/キング)



松本零士の巨大な作品世界を短編作品で辿る一冊
松本零士の大宇宙〜ハーロック ヤマト 999

著者:松本零士/四六判並製
発行:小学館クリエイティブ/発売:小学館/定価:本体1,600円+税/発売中

▲松本零士画業60周年を記念した自選作品集。
▲『キャプテンハーロック』『銀河鉄道999』『宇宙戦艦ヤマト』、『男おいどん』等の作品がひとつの巨大な宇宙としてつながった、松本零士の作品世界を短編作品で辿ることのできる一冊です。
▲ハーロックサーガの初期作品「宇宙船デスシャドー」、『宇宙戦艦ヤマト』の外伝「永遠のジュラ編」、『銀河鉄道999』の中でもファンの評価が高い「蛍の街」、未来のおいどんを描く「おいどんの地球」など10作品を収録します。
▲巻末には劇場アニメ『キャプテンハーロック』の脚色・脚本を担当した作家の福井晴敏と、松本零士のインタビュー記事を収録。

問合せ:小学館クリエイティブ(担当:日下)03-3288-1354 
http://www.shogakukan-cr.co.jp/book/b114637.html