[桜井順×古川タク]
「第3回てりとりぃ懇親会」のこと。
去年の懇親会は6月29日だった。三角帽をかぶった三人、桜井順さん、村井邦彦さん、江草啓太さんによる連弾「ミファソラ」。「明るい表通りで」を歌った槇みちるさんを思い出していた。今年、第3回目を迎える懇親会は10月3日にあった。場所は去年と同じ、江戸川橋の、あの、LDKスタジオ。午後7時を過ぎると会場には執筆者がぞくぞくと集まってきていた。 濱田高志さんの声で集まった人たちだ。一番最初の到着は島健さんだった。 午後7時半、宇野亜喜良さんの乾杯の挨拶で会は始まった。普段は「月刊てりとりぃ」紙面で見る方ばかり。お会いするのは去年の懇親会以来だったりする。近況報告や最近あった出来事、やはり直接顔を見てお話しするのは違う。緊張するけど、やっぱり嬉しい。
午後9時前、それでは7階に集まってください。という号令がかかるとみんなひとつ下の会場へ集まった。みんな輪になってテレビを囲む。古川タクさん、島健さんによる短編アニメーション「tokyo 未完成」が流れた。スリルのあるビッグバンドの演奏をバックに、いくつかのアニメーション。未来の東京を見ているような、でも、それが今の東京のような気もした。 そのあとはこの会の恒例になってきた、ような出席者全員の自己紹介。今回は
15秒以内で、ということで毎回この時間になると緊張して、自分の番が終わると妙な開放感がある。全員の自己紹介が終わると、何か弾いてよ、のひと声で江草啓太さんのピアノ演奏が始まった。曲は江草さんがアレンジをしたトルコの民謡「カライジュラル」。イスラムの影響か、やはり少し中東の匂いのする素晴らしい演奏だった。そのまま江草さんの伴奏、島田歌穂さんによる沖縄の歌「花」、村井邦彦さんの伴奏、槇みちるさんによる「マイ・フ
ァニー・ヴァレンタイン」。こんなに近くで生の演奏を聴いたことがない、というほどの距離で聴く贅沢な時間。島田歌穂さんの高音にしびれ、槇みちるさんの「この歌好きじゃないのよ」から始まった完璧な声に感動した。 もう、終焉時間の午後10時は過ぎていた。それでもみんな帰らない。ああ、終わりたくないなあ。と思いながら、会場に残っている人とお話しをする。今年もまたあっと言う間。LDKスタジオを出たのは終電前だった。お土産は宇野亜喜良さん書き下ろしのトートバッグ、マグカップ。白土三平万年筆。某レコード屋のTシャツ。これだけでもとは取れるようなお土産。また来年が楽しみだ。濱田さんの韓国土産、マイチュウを食べながらそう思った。 (馬場正道=渉猟家)
実況筆記「第3回てりとりぃ懇親会」
去る10月3日に行われた「月刊てりとりぃ」創刊3周年の懇親会に参加してまいりました。今日はその数日前にカメラ係を引き受けた私真鍋の目線でその日の夜を再現してみようと思います。 さて、会場は東京・江戸川橋のLDKスタジオ。ここはもともと細野晴臣さん
のプライベート・スタジオ。まずYMOが入り、後にアルバム『フィルハーモニー』を始めとするYENレーベルの名作がこのスタジオで録音されました(そういえば「LDK」なんて曲もあったぞ)。そんな神聖な場所でにこやかに飯など食っていいのだろうか…。7時過ぎ、そんなことを考えな
がら会場を目指します。 さすがスタジオ、室内を区切るガラスの屈折率の高さがその分厚さを物語っています。中ではすでにほとんどの参加者が集まり賑わい始めているというのに、その音がまったく聞こえません。 7時半、乾杯とともにしばし歓談の時間です。参加者は全部で50人あまり。全員が入ると少し窮屈な会場で僕はカメラを持って撮りまくります。参加者で最年少だった僕は、どこに行っても恐縮してしまうもので、ファインダーを覗いていた時のほうがよほど心が落ち着きます。 8時半、下の階の部屋に移動して、古川タクさんら〝世界最高齢アニメ作家集団〟G9+1の新作「tokyo 未完成」の上映です。9人と1人がせっせと同じ場面の原画を書いてい
る図を勝手に想像していた僕は、中盤を過ぎてからようやく作品がメンバーそれぞれの短編で成り立っていることがわかってきたのですが、終盤の鈴木伸一さんのパートは事件でした。ピンクの髪のアホ毛(註:頭からアンテナのように飛び出た髪の毛)の少女が画面に現れるやいなや、決してにわか仕込みなどではない日本の萌え文化の重みを脳天にガツーンと喰らい、面白くなさそうな顔で街を歩
く〝ラーメン大好き〟小池さんの姿を見て、僕も年齢的にはのび太くんよりも小池さんに近いんだよなぁと口をへの字に曲げました。 上映が終わると、そのまま流れで参加者全員による短い挨拶リレーが始まりました。その状況を「スキー場のロッジの夜」と言ったのは誰だったかしら(編註・泉麻人さんです)… 自分の挨拶をそこそこにこなし、参加者ひとりひとりのベストショットのチャンスを前にして遠慮なくシャッターを切りまくります。 そして会は余興へ。まずは江草啓太さんがピアノソロでトルコの民謡を披露し、続いて島田歌穂さんが「花」を、槇みちるさんは村井邦彦さんのピアノで「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」を歌います。一度きり、その場限りだからこそ生まれる緊張感と美しさに思わず
目を閉じ息を呑みます。このときばかりは流石にシャッターを切ることができませんでした。なので前奏のときに控えめに数枚だけ。iPHONEで録音? とんでもない! つまらない振動音で興を削がないように電源をOFFにしておりました。素晴らしい時間の中にいると、自然とそう思えるものなんですね。 ふと気がつけば時計は10時前。豪華な豪華な記念品の紹介が済めば会も流れで解散ですが、そう簡単には終わりません。てりとりぃ発行人かつこの会の主宰・濱田高志さんが〝締めのことば〟にこの僕を指名されたのです。ええっ!? いいじゃんそのまま解散で! …あまりうまいことは言えなかったのですが、変に言い淀んだりせず、皆さんに締めのことばとして迎えていただけたのが不幸中の幸
いでした。 全員が全員憧れの職業と言うべき同人の皆さまに対する憧れや思い入れは長くなるので省きますが、人生最大級の舞台がひょいとあっさり手渡されていたことに今思い返してみても戦々恐々。これからの人生、ちょっとやそっとのことでは物怖じすることはないでしょう。 参加者はポツポツと帰り始め、残った人たちで録音スタジオの見学、後片付けをしました。僕はといえば、緊張の糸が切れたのか残った料理を狂ったように食べまくり、来年はもっと大きい顔になって帰ってくるぞと神田川の水面に誓ったのでありました。 (真鍋新一=編集者見習い) ーーーーーーーーーーーー 懇親会写真(上より)撮影・吉田宏子/撮影・真鍋新一/撮影・長井雅子
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