2013年11月8日(金)

巨匠ミシェル・ルグランが昨年に続いて再び来日

 ミシェル・ルグランが三年連続で来日を果たす。これは2000年代に入ってから初めてのことで、これもひとえに彼がブルーノート東京をホームグラウンドとして認識したからにほかならない。もとより親日家ではあるが、高齢なだけによほど気に入らなければ三たび続けての来日は実現し

なかっただろう。
 演奏メンバーは昨年と同様にフランソワ・レゾー(ドラムス)、ピエール・ブサゲ(ベース)、そしてミシェル(ピアノ)の三人。同メンバーは、この数年間、断続的に世界中を巡る演奏ツアーに出ており、ミシェルにとって目下のベスト・メンバー。今年に入ってか

らもツアーは勿論のこと、数々の式典やアルバムの録音に参加しており、とりわけ先頃本国で発売されたフランスの声楽家ナタリー・ドゥセによるミシェルのソングブック(国内盤12月発売)と来春日本で発売予定の新作は、彼らの演奏が際立った名盤としてお薦めしたい。
 現時点で手元にセットリストが届いていないが、今回の来日公演では、代表作「シェルブールの雨傘」「華麗なる賭け」の主題曲もこれまで日本で披露したものとは異なるアプローチで演奏されるだろうし、興が乗れば昨年のように観客のリクエストに応えたり、即興演奏を披露するなんてサプライズも期待できる。
 なお来日公演に先駆け、今月12日には新宿ブルックリンパーラーにて、須永辰緒氏の呼びかけで、本誌同

人でもあるルグラン・フリークの加藤紀子嬢が初のDJに挑戦するとのこと。何とこの日は「ルグラン・ナイト」だそう。筆者はもとより本誌執筆陣も観客として押し掛ける予定だ。
 また、手前味噌ながら筆者も先月からエスパス・ビブリオにて隔週でルグラン講座を開催中。全4回のうち残り3回は明日9日と30日、12月14日。貴重な音源や映像をふんだんにご紹介しているので、ご興味のある方は是非ともお越し頂きたい。詳細はビブリオ・エスパスのブログをご参照のほど。
 そして、来年初夏には「ミシェル・ルグラン 風のささやき 増補改訂版」、さらに先頃本国で刊行されたミシェルの自伝の翻訳書も刊行予定。ご期待下さい。
(濱田高志=アンソロジスト)
ミシェル・ルグラン
ブルーノート東京公演
2013 11.21 thu. - 11.22 fri.


 3度のアカデミー賞と5度のグラミー賞に輝くマエストロ、ミシェル・ルグランがジャズ・ミュージシャンとして登場する。数々の映画音楽で不滅の功績を打ち立てた彼だが、そのルーツにはジャズがある。‘50年代初頭、パリを訪れていたディジー・ガレスピーに作品を提供したことがプロ・アーティストとしての本格的な活動につながり、'58年のアルバム『ルグラン・ジャズ』ではマイルス・デイヴィスやビル・エヴァンスらとコラボレーションを展開。それから半世紀以上が経った現在、彼のジャズは更に深みを増している。代表作である映画音楽の演奏も期待をしつつ、マエストロが繰り広げる“ルグラン・ジャズ2013”に期待は高まるばかりだ。



藤子不二雄Ⓐ 初期の傑作SF作品「ロケットくん」初単行本化成る!

 漫画にあまり詳しくない向きでも、藤子不二雄がふたりいることはご存知だろう。「ドラえもん」「パーマン」「エスパー魔美」などを書いた藤本弘(藤子・F・不二雄)と、「怪物くん」「忍者ハットリくん」「笑ゥせぇるすまん」などの安孫子素雄(藤子不二雄Ⓐ)。ちなみに「オバケのQ太郎」は合作である。87年にコンビを解消するまではふたりのペンネームである藤子不二雄名義で活動していた。藤本先生は96年に

惜しくも他界されたが、安孫子先生はすこぶるお元気で、現在も健筆を揮っている。
 今回復刻された「ロケットくん」は、56年から57年にかけて、雑誌「ぼくら」に連載された作品。実はこの前年の55年正月、多くの連載を抱えたまま帰省したふたりは、地元に戻った安堵感からか、原稿をことごとく落としてしまうという失敗をしている。それから一年くらいはさすがに仕事を干された状態が続き、失

意のふたりに再び訪れたチャンスが、この「ロケットくん」だったのである。再起を飾る、事件後の連載第1作となっただけに、力の入りようが窺える。
 宇宙を舞台にした本格SF作品であること、そして絵のタッチにも手塚治虫の大きな存在を感じずにはいられない。「鉄腕アトム」の連載も既に始まっていた時期である。56年暮れには、東宝で円谷英二が特撮を担当したSF映画『地球防衛軍』が公開されるなど、当時の米国とソ連の熾烈な宇宙開発競争は日本の芸術・文化にも大きな影響を及ぼしていた。冒険SF漫画の中にも、主人公のロケットくんこと桜鉄太郎を中心に、大吉くん、赤星くんら、同世代の男の子の友情や対決が描かれているところなどは、ずっと後、戦時中の疎開先の学校を舞台にした藤

子不二雄Ⓐの傑作「少年時代」の布石の様にも思える。真直ぐな正義と勇気が作品の根幹に貫かれているのは、作者もまだ20代前半の青春時代にあり、悪事を企む大人よりも、無垢な少年たちの心情により近かったことの表れであろう。
 安孫子自身にとっても思い入れの深い作品であることは、自叙伝的漫画「まんが道」に、当時「ロケットくん」が読者からの支持を得られるまでの細かい経緯が描かれていることでも明らかだ。今年遂に完結したその続編「愛…しりそめし頃に…」にも、連載終了時のエピソード「ロケットくんの最後」が登場する。その話が載っている同作の単行本第2巻には、「ロケットくん」カラー回の色彩原稿も復刻収録されているので、今回の復刻と併せてご覧になられることをお薦め

する次第。
 その後、子供向けの作品も数多く描いてきた藤子不二雄Ⓐ氏だが、一方でブラックユーモアなど、大人向けの異色作にも定評があり、ぜひとも多くの方に読んでいただきたいと思う。人間の深層心理を鋭く抉った、思わずドキリとさせられるような作品群は一度読んだらクセになる。極めて良質な復刻を精力的に進めている小学館クリエイティブからは、今後も稀少な藤子作品の発行が予定されているとのことなので、大いに期待しよう。
(鈴木啓之=アーカイヴァー)
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『宇宙少年団 ロケットくん』上・下/藤子不二雄Ⓐ 著/発売・小学館/本体1800円+税(上下とも)/発売中



「ビヨンド~平山みきオール・タイム・ベスト」に寄せて

 個性的な歌声と黄色のイメージが定着している平山みきですが、歌謡界の黄金コンビ橋本淳&筒美京平の書き下ろしによる新曲「ビヨンド」が収録されたニューアルバム『ビヨンド~平山みき オール・タイム・ベスト』が今月20日リリースされるのをご存じでしょうか。

 平山みき(デビュー当時は「平山三紀」と表記)は1970年にコロムビアから「ビューティフル・ヨコハマ」で鮮烈なデビューを飾りました。翌年に発売した「真夏の出来事」は大ヒットし、その後もスマッシュヒットを連発。74年にCBS・ソニーに移籍、一旦歌手活動を休止しますが、

79年にワーナー・パイオニアに移籍して歌手活動を再開、以後ビクター、ファンハウス、ポリスターなど自身のペースに合わせた活動を展開し、多くのレーベルから作品をリリースしてきました。今回初めて、全てのレーベルの協力を得てのベスト・アルバムが実現しました。プロデューサーは長きにわたって平山の音楽制作に携わってきたフジパシフィック音楽出版の朝妻一郎会長。
 選曲には平山本人はもちろん橋本&筒美も参加し、三人によって橋本&筒美作品のベストテンが選ばれました。おなじみの「フレンズ」(72年)、「恋のダウン・タウン」(73年)、「真夜中のエンジェル・ベイビー」(75年)、「マンダリン パレス」(72年)、さらにはロサンゼルスでレコーディングされた「絆」

(79年)、「フィルム シティ モーテル」(79年)などいずれも名曲ぞろいです。
 ボーナス・トラックとして、橋本&筒美コンビ以外の作品の中からも人気曲がセレクトされ、近田晴夫のプロデュースによる「鬼ヶ島」(82年)や、フジテレビのドラマ主題歌にもなり、久しぶりに夜のヒットスタジオにも出演した「冗談じゃない朝」(87年)、中島みゆきのカバー「悪女」(90年)、松井寛を作曲に迎えての「パーフェクト・ワールド」(01年)が収録されています。
 アルバムの目玉となる新曲「ビヨンド」は、久しぶりに橋本&筒美&平山の三人がスタジオに揃ってのレコーディングとなり、ディレクションは平山とは旧知の音楽プロデューサー渡辺忠孝が手腕をふるいました。ジャケット写真は彼女のシ

ンボル・カラーである黄色をイメージ、撮影は現在平山が住む京都のスタジオで行われました。
 歌手・平山みきの歴史がたっぷりと詰まった『ビヨンド~平山みき オール・タイム・ベスト』。機会がありましたら、是非平山ワールドをお楽しみください。
(衛藤邦夫=音楽ディレクター)
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『ビヨンド~平山みきオール・タイム・ベスト』11月20日発売/日本コロムビア:COCPー38267/定価2940円(税抜価格2800円)/平山みきが所属した全レーベルの音源の中から、本人の選曲によるベスト・アルバムが登場。橋本淳&筒美京平コンビによる11曲(オリジナル新曲を含む)にボーナストラック4曲を加えた全15曲収録。

特別寄稿「恋は好きだわ」 文・泉麻人

 80年代の終わり頃、ライブの構成をやらせてもらったのをきっかけに、みきさんとは何度もお会いしているが、ここではファンの視点で今度のベスト盤の魅力を語りたい。好みの曲は多々あるけれど、久しぶりに「フレンズ」を聴いたとき、初聴の印象がサーッと浮か

びあがってきた。72年3月の発売だから、中3から高1にかけての春。あれは当時ほぼ毎週チェックしていた愛川欽也&五十嵐じゅん司会時代の『ベスト30歌謡』ではなかったか? 注目曲みたいなコーナーで平山三紀(当時)の「フレンズ」が紹介され、カッチョいい

ジャジーなサウンドに「え、こういうのアリなの?」みたいな衝撃を受けた。
 まだまだ他の曲のエピソードも書きたいところだが、ちょっと紙幅がない。ここはやはり新曲「ビヨンド」の感想で締めたい。トータルな完成度はもちろん、なんといっても素晴らしいのは、♫恋は好きだわ〜のリフレイン。初めて聴くのに懐かしい、耳に残る京平メロディー。「恋は好きだわ」なんて、直球の言葉を使って、クセのある文法に仕上げる術は橋本淳の真骨頂。〜だわ、の言葉尻も平山みきならではのものでしょう。まさに、三位一体。カニミソのようなサビであります。
(泉麻人=コラムニスト)
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写真提供=日本コロムビア