最近、幼いころのトラウマが大いに蘇ってしまう出来事がありました。それは、映画『シャイニング』について徹底的に追求したドキュメンタリー『ROOM237』(全国順次公開中)の監督、ロドニー・アッシャーの公式サイトにて公開されている短編『地獄より来たる〝S〟』を観たせいです。ホラー映画にそれほど興味のない僕が大きく引
きつけられたのは、この作品が「昔見た企業のロゴマークに大いなるトラウマを植え付けられた!」ということを訴えたいがためだけに作られた映画だったからです。タイトルの〝S〟とはなにかと言うと、コロムビア映画傘下の制作会社、スクリーン・ジェムズのことで(モンキーズを裏で操っていた会社でもあります)、『奥様は魔女』などのTVドラマのエンディングに流れるそのロゴマークが世に出たばかりのムーグ・シンセの旋律と相まって、当時の子どもたちに静かな恐怖を与えていたそうです。とはいえ日本でこのマークがほとんど観られることはなく、その点は今ひとつ馴染みません。 では我々日本人にはまったく関係ない話なのかというと、それが違うのですね。最近はほとんどなくなりま
したが、かつて1社提供と呼ばれる単独スポンサーのTV番組には〈明るい〜ナッショナ〜ル♪〉や〈光る〜光る東芝〜♪〉〈ロート、ロートロート〜♪〉などといった企業ソングが必ず流れていました。〝企業のロゴマークを怖がったある少年〟とは他でもない僕のことで、昔から家電メーカーを始めとする老舗企業のロゴマークが怖くて怖くて仕方がありませんでした。たまたま買ったTVアニメのサントラCDで『鉄人28号』主題歌のラスト〈グリコ、
グリコ、グ〜リ〜コ〜♪〉を初めて聴いてしまったときの寒気も忘れられません。なんの自慢にもなりませんが、ナショナルの〝Nマーク〟と東芝の筆記体ロゴに追いかけられる夢を見て泣きながら目を覚ましたこともあります。この悪夢はおそらく〝TOSHIBA〟のロゴが徐々に画面の手前に迫ってくる『サザエさん』のオープニングのせいだと思うのですが、『地獄より来たる〝S〟』を最後まで御覧いただくと、同じトラウマを持つ人間が他にもいたと知って僕がどんなに救われたか、わかっていただけると思います。若干誇張や妄想めいた表現が目につきますが、幼いころTVを観ていて不意に怖いロゴマークに出会ってしまった、あの衝撃を補って余りあるものです。 ネット界隈では今も〝B
LOOPERS〟と呼ばれる本作のパロディ動画がどしどし作られ、各種サイトに投稿されています。みんなそれぞれ〝怖いロゴマーク〟があったということです。今まで恥ずかしくて人にはなかなか言えなかったけど、これでやっと話せます。ああ、それわかる!と思った方へ。「昔、怖かったロゴマークはなんですか?」。 (真鍋新一=編集者見習い)
自主制作マンガ界の四角いジャングル
大阪へ行ったので中津に立ち寄ったのは、西村ツチカと香山哲という自主制作マンガのキーパーソンふたりのトークショーを聴きに。商業マンガ誌にはあまり登場しない香山哲について説明を添えると、自作の発表のために小出版社・ドグマ出版をたちあげ、他のクリエイターにも目配りしつつ、旺盛に執筆を続けている作家。その作品の特徴は、時折マヤ文明のレリーフのようにすら見えてくる画密度の高さ(文字も見事な手描
き!)。最近上梓した青春マンガ『香山哲のファウスト1』は、昨年読んだ本のなかでも傑作の部類だった。西村はアマチュア時代、香山の主催する「パブリッシュゴッコ」に参加していたという。このイベントは現在も神戸で不定期に継続中で、個人出版の面白さを、参加者が自作を提示して考え、実感するという集いらしい。楽しそう。俺はその楽しげなパンフレットでしか知らず、残念なのだけど。対談は双方のマンガへの愛
情が伺われ、安心した。いつまでもマンガ家を肩書きにして欲しい。 ところで、会場となった「シカク」という店、いちど行ってみたいと思っていたのだ。「商店街のなかにある」という情報と簡単な地図だけで向かったところ、完全に迷ってしまった。通りがかりの誰もが、この辺に商店街はないと言う。お婆さんがひとり「市場のことか」と聞いてきたが、それは違うだろう。最後に犬の散歩中のお姉さんが「商店街としては機能していないですけど」と教えてくれたのが、目当ての中津商店街。確かに、かつて商店街だったらしき、味なスポットだった。 縁起の良さそうな風貌で気さくな店長は、「お年寄りはここを市場と呼ぶ方も居ますね」と笑った。本やCDと共に、どう仕入れた
か分からない外国の雑貨などが並ぶ。店で出している『シカクの本』は、全国から集まった自主制作本への温かなレビューや、その筋の注目株へのインタビューで構成され、アットホームながら(おっ、掲載マンガは店長のお父様の作なのかな。聞き憶えある作家だぞ)資料性高い。看板猫のにゃん太は愛想がよく、レジ横で生写真が売られていた。ちょっと見程度では謎の深い店。また寄ります。 (足立守正=マンガ愛好家)
てりとりぃアーカイヴ(初出: 月刊てりとりぃ#48 平成26年2月22日号)
大阪から池袋絵意知です!〜「豚まん」
肉まんが恋しい季節になってきました。「肉といえば牛肉。豚肉は豚」の大阪では「豚まん」と呼ぶのはご存じの方も多いと思います。で、大阪の豚まんといえば『551蓬莱』が有名ですよね。でも、創業メンバーから分裂した中華料理の『蓬莱本館』も豚まんを扱っているんです。出張が多い大阪のビジネスマンの話によると新大阪駅にある『551蓬莱』は朝9時営業開始なのに対して、『蓬
莱本館』のほうは9時前から営業しているそうです。「551が開いてない!ネットで調べても9時からだ。困った」と歩いていたら蓬莱本館があって、「ま、いっか」とお土産として買って行ったそうな。 全国的に有名な551蓬莱の「豚まん」ですが、インターネットでの販売はやっておらず、ネットで買えるのは蓬莱本館の「豚まん」のほう。『せんば自由軒』のレトルトカレーを「あれ
はウチの商品じゃございません」という『自由軒』と同様、分裂した大阪の飲食店の争いは醜いものがありまして、『餃子の王将(京都王将)』と『大阪王将』の軋轢なんかかわいいもんです。「『蓬莱本館』様は違う会社でございます」「551蓬莱の『豚まん』は全て直営店で手作りで出来立てを販売しております。『冷凍』商品は当社では一切販売しておりません」としながらも「尚、『遠距離移動』をされるお客様のご利用が多い『新大阪駅店』…(略)…にてあつあつの豚まんを急速冷蔵した『チルド豚まん』を販売しております」とのこと。「チルドも冷凍なのでは?」と思ったものの検索して「凍結寸前の温度まで冷却保存すること」だとわかりました。 で、「能書きはいいからどっちが美味いねん?」と
難波のど真ん中「戎橋筋商店街」に行ってきました。「創業1945年蓬莱発祥の地」と看板を掲げる『蓬莱本館』とマクドナルドを挟んである『551蓬莱』本店に。感想は「551のはコンビニの肉まんと比較しても全体的に小さいし餡も少ないが、生地はもちもちとして美味しい。本館の
は餡が多くてジューシーで肉肉しいならぬ豚豚しい。生地は硬めで横浜中華街で買い食いしたのに似ているが、個人的にはもう少し柔らかいほうがいいのでこの勝負引き分け」。本館の餡に551の生地のコラボ豚まんを作ってくれよ!(笑) (池袋絵意知=観相家・顔研究家・顔面評論家)
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