2014年11月7日(金)

ヒトコト劇場 #51
[桜井順×古川タク]








連載コラム【ライヴ盤・イン・ジャパン】その13
フォーク歌謡の歌姫は声美人~あべ静江

 久しぶりなので、取り上げるなら美人がいいですね。美人といえばあべ静江。1973年のデビュー時点で21歳と、アイドルとしてはちょっと年上だったが、「お姉さま系アイドル」というジャンルを生んでしまったほどの存在だった。
 あべ静江の最初のライヴ盤は、74年6月9日に中野サンプラザでのステージを収録した『あべ静江リサイタル』。彼女は天地真理、岡崎友紀、チェリッシュの悦ちゃんといったフォーク歌謡の歌姫の系列にあることがこの盤を聴くとよくわかる。前半はストーリー仕立てで、トワ・エ・モワの「或る日突然」や森山良子の「この広い野原いっぱい」といった曲に混じりオリジナル曲の「白鳥」やヒット曲「みずいろの手紙」が歌われているのだ。前述の歌手たちとの共通項を挙げる

なら、ファルセット・ヴォーカルの美しさが挙げられるだろう。女性フォークはファルセットなのだ。
 洋楽カヴァーも多数収録されており、いずれも日本語詞。ストライクな出来はやはり「想い出のグリーン・グラス」や「青春の光と影」といったフォーク調だが、意外に魅力的なのは「アローン・アゲイン」で、

この方向性で行けばソフト・ロック名盤が生まれたかもしれない。
 笑っちゃうのはアルバムの歌詞カードに寄せた自身のライナーで、ステージの出来が良くなかったと反省の弁。「聞いていただけばおわかりになると思うのですが『イエスタデイ・ワンス・モア』なんてヘトヘトだし」「スタジオまでチャ

ーターして、いざ、取り直そうとしたんです」とまで告白している。正直すぎでしょ! 
 さて、もう1枚のライヴ盤は1975年6月14・15の両日、大阪厚生年金会館のステージを収録した『私は小鳥 あべ静江イン・コンサート』。グッとアダルトになり声にふくらみと柔らかさが増したことは、1曲目の「コーヒーショップで」を聴けば一目瞭然。そしてここでも選曲の中心はフォークで、風の「22才の別れ」など、清楚な声ゆえに湿っぽさを感じさせない。ふきのとうの「白い冬」や小林啓子の「さよならを言う前に」など珍しいカヴァーまで、どれもいい。似合わないのは森山良子の「古い田舎町」で、フォークは良くてもカントリーはダメなのか… 難しいものだ。
 意外な拾い物が井上陽水

の「傘がない」。陽水の人ごとみたいに突き放した歌い方とは真逆の、主人公の心情に寄り添うような優しさに溢れている。そうだった、この人は元々東海ラジオの人気DJだったのだ。まるで若者の悩みに答えているかのような説得力がある。語りかけるように歌うという意味ではこちらも森山良子の「愛する人に歌わ

せないで」で、歌唱力では本家に負けるが、むしろ繊細さで勝負した感あり。何よりファルセット・ヴォーカルは聴き続けると疲れてくるのだが、あべ静江は地声も綺麗なので、地声→ファルセットの波も飽きがこない。顔も声も綺麗な人は得なのだ。
(馬飼野元宏=「映画秘宝」編集部)
●(ジャケ上)『あべ静江リサイタル』演奏:ダン池田とニューブリード。作・構成:保富康午。美術監督に妹尾河童。関口宏の弟・佐野守がゲスト出演。●(下)『私は小鳥 あべ静江イン・コンサート』演奏メンバーは不明。プロデュースは鴨下信一。大野克夫、石川鷹彦がアレンジ参加。




居酒屋散歩《新宿・樽一》


 前回に続いて再び新宿。「樽一」というお店。ここは、入口のわきに鯨図鑑のイラストがあり、またその上には大きな鯨の絵がかけられているほど、鯨料理のメニューの豊富なところ。
 先月、捕鯨の国際会議で日本の調査捕鯨に禁止勧告がなされたが、日本は大昔から鯨を食材にしてきている国で、もっと世界にそのことをアピールするべきだろう。縄文・弥生時代の遺跡から鯨の骨の化石が見つかっている。また、江戸時

代には捕鯨の技術が確立してその様子を描いた絵も残されている。明治以降になると近海だけではなく、遠洋捕鯨もなされるようになったという。私の子供時代には、小学生の教科書に無駄のないクジラの利用法が図解で載っていたほどだ。ちょっと前まで、鯨は大衆的な食べ物だった。
 この店、最初は高田馬場にあったらしい。私が最初に行ったのは歌舞伎町の真ん中あたりのビルの5階にあったが、昨年現在の場所

に移った。今度はビルの地下1階だが、地下を感じさせないような開放感のある入口で良い雰囲気のところ。JR新宿駅から歩くと、紀伊国屋書店の裏で靖国通りを渡り、区役所通りに入る。右側を歩き、左手に新宿区役所を見ながら進んでそのすぐ先の右側の新しいビル。
 印刷所の営業をやっているM氏と二人で入り、座敷の席に案内してもらった。もう一人の出版社の社長S氏は少し遅れるとのことなので、先に始めることにした。季節のメニューを聞いて、ビールと共に煎り銀杏とカキフライを頼んだ。土瓶蒸しもあったのだが、遅れてくる人もいるのでやめた。ここは東北の食材が多く使われカキは三陸産のもの。アツアツのところを冷たいビールでいただくのは幸せ、とつい思う。
 次の料理を頼もうかと

思っている頃にS氏がやってきた。そこで刺身の盛り合わせと鯨ベーコンを頼んだ。となるとビールではなく酒がいい。この店は浦霞がメインで常時10種以上を取り揃えているという。ひやおろしの浦霞を出してもらった。程よいふくよかさを味わいながら、刺身やベーコンをつまむ。この酒は口当たりが良いのでどんどん進んでしまう。しばらく飲んでから、次の料理を。鯨の刺身もあるのだが、少し寒くなってきたので鍋にした。鯨のハリハリ鍋。たっぷりの水菜と鯨の4種ほどの部位をいれたもの。水菜のシャキシャキした食感がさらに酒を進ませる。
 大分良い気分に酔ってきたので、鯨の寿司でもつまもうかと思ったが、印刷所のM氏がもう1軒、というのでここで終了にした。
 帰りはシンちゃんという

店主が入口まで送り出してくれる。彼の声を後ろに聞きながら階段を上がって通りに出る。左に歩くとすぐ右側に区役所があるが、そこで左手に曲がると正面にゴールデン街入口のアーチが現れる。M氏はゴールデン街に行ったことがないというので、来る前から予定していたようだ。なじみの店を覗いてからまだ時間が

あったので、もう10年以上行っていなかった店のドアを偶然開けてみた。看板も昔の儘なので少し懐かし気分になっていたところ、見たことのない若い女性がカウンターの内側にいた。最近は若い店主が増えていると聞いているし、または今日はお休みだろうと思って、ウイスキーを2杯ほど飲んだところで、「久しぶりに

来たのだけど、ママさんは?」と聞くと、「母は亡くなりました」。「え!」とびっくり。
 若いころお世話になった飲み屋の店主が年でどんどんリタイアしてゆくが、こうして2代目というのもあることを発見した夜だった。勘定の時に、僅かだがお花代を添えて店を出た。
(川村寛=編集者)




企画展『ジャック・ドゥミ映画/音楽の魅惑』

会場:東京国立近代美術館フィルムセンター展示室(企画展)
会期:2014年8月28日(木)〜12月14日(日)
詳細⇒http://www.momat.go.jp/FC/demy/index.html


てりとりぃ×宇野亜喜良
コラボレーショングッズ 第4弾


「てりとりぃ」オリジナルキューブ BOX入りマグカップ+ブックカバーに続き、2014年ふたつ目のオリジナルグッズを作成しました。若干数ではありますが、ご希望の方にお分けします。数に限りがありますのでご注文はお早めに!

「てりとりぃ」オリジナルノート[Red]&[Black](セット販売のみ) ■自然にやさしい再生紙を使用したペンホルダーつきノートに宇野亞喜良書き下ろしイラストレーションをプリント ■サイズ:130×180×14(mm) ■セット販売価格 1,800円(送料別)※ペンは付属しません。

ご購入を希望される方は、「てりとりぃ」編集部 territory.tvage@gmail.com まで「オリジナルグッズ購入希望」と件名に表記の上メールにてお知らせ下さい。到着後3日以内に折り返し返信メールを送ります。なお限定品につき品切の場合はご購入出来ない場合があります。*別途送料は発送方法によって異なります。詳しくはお問い合わせ下さい。