ヒトコト劇場 #53
[桜井順×古川タク]
居酒屋散歩《浅草・一文》
浅草は子供の頃から通った街で、社会人になってからも時々行く。今回の「一文」へ最初に行ったのは30年近く前。この街は夜が早く、商店の扉がすぐ閉まってしまう。友人を連れて、雷門から仲見世を歩くと6時半頃だと開いている店を探すのに苦労するほどで、皆びっくりする。その分、新宿や渋谷などほかの盛り場と比べのんびり歩くことが出き、酒場を求めてフラフラするのが心地良い。ただ、ここ数年は外国人も含
め人の数が増えてにぎやかになってきた。街の活性化としてはこの方が良いのかもしれないが・・・。 ただ浅草は通勤ルートからは離れているので、頻繁に来ることはない。年に10回もゆけば多い方だ。行ったときは必ず「一文」に立ち寄る。店に入るとすぐ土間がある。古民家を改築した店で落ち着いたたたずまい。いかにもお酒がおいしいそうな雰囲気が醸し出されている。が、酒だけではなくすべての食材にこだわ
っているので、出てくるものどれも味わい深い。 今日はイラストレイターのT氏と2名で店に入った。6時を少し回った頃だったが口開けでほかに客がいなかった。小上がりに通されて、遅れてくる生協に勤めているY氏を待ちながら、ビールをゆっくり飲み始めた。2杯目にかかろうとする頃ようやく到着した。改めて3人で乾杯をしてお通しや刺身をいただいた。ある程度良い気持ちになったころ日本酒の利き酒セットを頼んだ。リーズナブルな価格でおいしい酒が3種類飲めるので、お得なセット。タラバガニやホタテを入れたシュウマイや、合鴨のつくね(半熟卵に付けて食べる)などで日本酒を流し込む。その後焼酎に切り替えて、この店の名物・ねぎま鍋に移った。グラスに氷と焼酎をドバっと入れてチビ
チビやりながら、銅鍋に千住ねぎやシイタケ、その他の野菜を入れて温まるのを待つ。ある程度温度が上がった所へ、マグロのトロ肉を入れる。ちょっとひたしてから柚子胡椒をつけていただく。口の中でとろけるマグロを堪能していると、焼酎のピッチが俄然上がってくる。トロの脂身が気になるようであれば、鍋に浸す時間を調節して味わえば良い。体と心がたっぷり温まった所で、〆のうどんをいただく。満たされた気分
だったがさらにデザートまで欲張ってしまった。T氏もY氏も初めての来訪だったが、満足したみたいで、お店のチラシをしっかりカバンに入れて店を出た。 店の場所は、言問い通りと国際通りの交わった交差点から歩いて2~3分ほどの所。雷門の方から来るときは、仲見世を通り、浅草寺でお参りをしてから、浅草寺の裏側の方に歩いてくる。 国際通りというのは、昔、ここに国際劇場という松竹
直営の大きな小屋のあった所から来ている。私が小学生の頃は毎年、正月に橋幸夫ショウを見に行ったものだ。戦前から昭和30年代ころまで東京の盛り場の中心だった浅草のランドマークで、今は浅草ビューホテルが立てられている。余談だが、このホテルの窓側の部屋は、隅田川の花火の夜は1年も前から埋まるという。 「一文」のあるあたりは人通りも少ないが、ところどころに飲み屋の看板が明かりを灯している。遅くまでやっている店も多く、ゆっくり梯子をするにはもってこいのスポットだと思う。実は、この店から徒歩5分くらいの所に「一文・別館」があり、ここはコース料理専門で、また違った趣が味わえる。12月には忘年会が何度かあるが、この別館にも来ざるを得ないだろう。 (川村寛=編集者)
演奏者推測のススメ 6
前回に続いて、2004年に東芝EMIやコロムビアミュージックエンタテインメントなどレコード会社5社から計6枚リリースされたコンピ「Love Sounds Style」シリーズをテキストに演奏者を推測していきます。 前回は東芝EMI編を中心に推測したので、今回はコロムビアミュージックエン
タテインメント編から。本盤では、村岡実/山屋清とオール・スターズやスリー・エス・フィルム・サウンズなどでは、山屋清(S)が編曲を担当しています。整然としていて匿名性の高い演奏ですが、当時山屋氏は原信夫とシャープス&フラッツや、渡辺明(S)からバンマスを引き継いだ東京ユニオンにかかわってい
たので、彼らのメンバーから選抜されたメンバーが演奏している可能性もあります。ちなみに、収録音源が録音された65年から68年のシャープス&フラッツは、菊地雅章の弟の菊地雅洋(Pf)、小川俊彦(Pf)、矢島賢)の師でもある野口武義(Gt)、竹内弘(Bs)、中村吉夫(Dr)らが在籍していました。ジェイク・コンセプションとジェット・セットでは、ピック弾きのベースが聴こえますが、本連載に頻繁に登場する江藤勲(Bs)でも寺川正興(Bs)でも無いトーン。スウィンギーな4ビートのグルーヴから、荒川康男(Bs)や稲葉国光(Bs)など、ジャズ界隈のプレイヤーがピックで弾いたと推測できそうです。 ビクター編での筒美京平とそのグランド・ストリングスでは、江藤氏のベースが聴こえます。ただ、普段
とは違ってかなり匿名性の高く、個性を押し殺したようなプレイです。 BMG編に収録されている、グランド・ファンタスティック・ストリングスでも江藤氏のプレイが聴こえますが、筒美京平とそのグランド・ストリングスより個性を出したトーンです。また、解説ではゲンチャーズのメンバー名が記載されており江藤氏と寺川氏の名前がありますが、収録音源の「ウインディ」は江藤氏のトーンです。 ソニーミュージック編に収録されている筒美京平とサウンド・ナウ・オーケストラのベースはおそらく武部秀明でしょう。暖か味がありながらも力強い、70年代中盤以降の筒美氏を支えたトーンのベースです。 (ガモウユウイチ=音楽ライター/ベーシスト)
|
|
|