2015年12月4日(金)

 
ヒトコト劇場 #72
[桜井順×古川タク]









【ライヴ盤・イン・ジャパン】その19
Jソウルの恩人~フィンガー5

 日本にブラック・ミュージックのノリを定着させたのは誰か、と考えるといろいろなアーティストが浮かぶ。弘田三枝子、和田アキ子、キングトーンズ、はたまた久保田利伸か岡村靖幸か……。ただ、同世代的にどうしても挙げておきたいアーティストがいる。フィンガー5だ。
 彼らの全盛期、小学生だった筆者は夢中になってテレビ番組を追いかけた。バンプにフットボール、モンローウォークにタコスショップと、アメリカ文化を教えてくれたのも沖縄出身の彼らだった。そして、黒っぽいノリを自然に体現していたのが、彼らの歌とステージであり、その模様を収録した『ファースト・ライブ』は今も愛すべき1枚だ。
 2枚組のこの盤は、メンバーが半年間のアメリカ武者修行に旅立って、日本を

不在にしていた時期にリリースされたもの。渡米直前に開催された「さよならコンサート」の収録盤だが、この時期は、フィリップスからポリドールへの移籍時にあたり、フィリップス時代の大ヒット曲は収録できなかった。だが、それを除いても余りある素晴らしい内容で、オープニングのカ

ーペンターズ「ワン・ファイン・デイ」からして完全に彼らのオリジナルに消化しているが、圧巻は中盤のモータウン・メドレー。妙子が歌うシュプリームスの「ストップ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラブ」のキュートさもいいが、テンプテーションズの「マイ・ガール」にハモリのスキャット

を入れ、さらにはオリジナルと異なる70年代以降のテンプスの歌い方をコピーしているのが素晴らしすぎる。♪ホワット・キャン・メイク・ミー〜のアタマに休符が入り、一瞬ズラして歌うのだ。ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」もテンポが倍速になり、「天使のささやき」は、本家スリー・ディグリーズ以上に多幸感に溢れたアンサンブルを聴かせる。こういう音楽は理屈や技術でなく体感でないと無理なので、同世代のフィンガー5が消化し解釈して伝えてくれた音楽体験は、70年代の小学生には感謝しても余りあるものであった。
 アメリカから帰国後に発表された、彼らの2枚目のライヴ盤『セカンドライヴ 東京→徳之島』は、前半が76年の夏に日劇で行われた子門真人とのジョイントコンサート、後半が徳之島

の闘牛場(!)で行われたステージの模様で構成されている。メンバー紹介のコーナーでは子門真人も加わり、個々にソロでフェイクを聴かせるパートがまず素晴らしい。帰国後の彼らの成長ぶりは後半の「ダンシング・シューズ」や「大さわぎ」といったナンバーでも顕著に現れ、特に後者の

ファンク・ビートをバックにした掛け合いの上手さは、これが10代の日本人かと今聴いても驚くほどだ。2枚のアルバムはいずれも、リード・ヴォーカルの晃が変声期を終えた後の声なので、あのハイトーン・ボイスによるヒット曲の数々は収録されていない。その代わり、R&Bはもちろんロックン

ロールやアメリカン・ポップスのカヴァーがたっぷり収録されている。考えてみたら小学生が連日テレビで歌ったり、義務教育期間に渡米したり、今では考えられないことだが、兄弟の熱心さに父親が折れて、一家は返還前の沖縄から上京してきたのである。フィンガー5の玉元家にとって音楽は〝家業〟だったのだ。その熱量が同じ小学生には眩しかったのである。彼らは当時の小学生に、洋楽の楽しさを教えてくれた大恩人だった、とあらためて思う。
(馬飼野元宏=「映画秘宝」編集部)
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●『ファースト・ライブ』75年8月9日、中野サンプラザホールでの収録。
●『セカンドライヴ 東京→徳之島』8月21~23日、日劇/8月28日、徳之島亀津闘牛場での収録。



カレーラーメン


 十年ほど前、カレーラーメンにハマッたことがある。街の中華屋でカレーラーメンのメニューがあれば必ず注文し、名店があると聞けば、遠かろうと食べに行っていた。今は閉店してしまったが、本郷にあった欧風カレー「プティフ」もその店のひとつである。また、当時は、名古屋のチェーン店「すがきや」唯一の東京店が高田馬場にあり、よく食べに行っていたが、ここのカレーラーメンも絶品で

あった。ない店ばかりで恐縮だが、新宿 小滝橋通りにあった「COCO壱番屋」のカレーラーメン専門店「麺屋ここいち」がオープンした時も「ついにカレーラーメンの時代がが来たか!」と快哉をあげた。しかし、残念ながら、すぐに普通の「COCO壱番屋」になってしまった(現在は、秋葉原にて営業中)。
 個人的には、カレーとラーメンという、まさに日本の国民食のトップ2のコラ

ボレーションとして、大好きなメニューのひとつなのだが、周りの人に聞いてみても、意外と愛好者は少ない。東京カリ~番長・水野仁輔氏の「ニッポンカレー大全」を見ても、日清カップヌードルカレーのことは評価しても、カレーラーメンについては厳しい。さらに、ラーメン評論家の石神秀行氏もカレーラーメンについては「絶対流行んないよ」と即答だったと聞く。水野氏はカレーソースと中華麺の相性が良くないことや、ラーメンは、だしの風味を楽しむのに、カレーの香りが邪魔になるなど、結構厳しい指摘だ。確かにそんな理由から一般的には好まれないのだろう。
 しかし、一方でカレーうどんの隆盛はなんだ。そもそも蕎麦屋のメニューで鴨南蛮そばにカレーを合体させたのがカレー南蛮らしい

が、いまやカレーうどんのチェーン店も随分増えてきた。巣鴨「古奈屋」を筆頭に、チェーン店「千吉」など都内でも、随分数が増えてきた。そもそも、蕎麦屋のカレーは愛好者が多く、あの神田淡路町「まつや」でも、カレー丼だけ食べて帰る強者もいるらしい。そばやうどんは一般化しても、ラーメンの参入は厳しいのか。
 そういえば、少しだけ朗報もある。今年の9月に明星から「銀座デリー監修 カシミールカレーラーメン」が発売になった。カレーの名店からのラーメンへのアプローチだ。これまでのB級グルメ的な存在から、ちょっと高級的な見えかただ。これを契機に、もう少し気軽にどこでもカレーラーメンが食べられるようになると良いのだが。
(星 健一=会社員)