2016年2月26日(金)

 
ヒトコト劇場 #77
[桜井順×古川タク]









古書とスイーツの日々
ぼくらのおそ松くんの巻

 アニメ『おそ松さん』が大層な人気らしい。それも主に若い女子層から支持されているという。赤塚不二夫生誕80周年記念作品として昨秋から始まった番組は、原作の漫画「おそ松くん」のその後の世界が描かれ、大人になった六つ子たちが皆ニートと言う設定。赤塚漫画のファンとしてはもちろん初回からチェックしたが、徹底したパロディ精神とスピーディーな展開で予想以上に楽しめ、毎週欠かさず見るようになった。しかしまさかここまでの人気

を得ようとは! いかにも今風なセンス良い作りに加えて、女子ウケした最大の理由は人気声優たちの起用だそうだ。実状をこの目で確かめようと池袋の乙女ロードへ行ってみると、たしかにアニメイトの店頭に特設された「おそ松さん」のブースに多数の女子が群がる光景があり、ブームを実感させられた。さらに3月には「天才バカボン」の実写ドラマ放映、ゴールデンウィークにはドキュメンタリー映画『マンガをはみ出した男〜赤塚不二夫』が公

開と、赤塚ファンの楽しみは尽きない。
 今回が3度目のアニメ化となる「おそ松くん」だが、かつて実写版が作られたことはご存知だろうか。フジテレビ〝月曜ドラマランド〟枠で85年に放映された『おそ松くん』がそれ。自分はこの作品にAPとして参加することになり、初めてドラマの現場を体験することになった。所ジョージ演ずるイヤミが主人公になっていたものの、当然六つ子たちも登場する。まだCGなど一般的でなかった時代、おそ松やチョロ松を異なる俳優が演じ、顔が違う六つ子でシレっと処理されていた。イヤミと張り合うチビ太役は、新人アイドルの渡辺千秋。若い女の子なのにハゲのカツラを被らされるのにちょっと可哀想な気がしたものだ。ダヨーンに竹中直人、デカパンに稲

川淳二など、なかなか面白いキャスティングだった。劇中、写真で登場するチビ太の亡き父親の役を赤塚先生にお願いすることになり、その撮影のためにフジオプロを訪ねたのはよき想い出である。元気な頃の先生は大いにノッて下さり、バカボンパパの扮装で撮影に臨んで下さった上、ウイスキーグラスを傾けながら「おそ松くん」連載当時の昔話をたっぷり聴かせて下さった。実に幸福な時間だった。
 もうひとつ忘れられないのは、深夜に及んだ渋谷ビデオスタジオでの収録の後、トト子役の遠藤由美子と二人で宅送の路についたこと。もともと上司だった彼女のマネージャーから気軽に託されたものの、まだ20歳だった紅顔の青年にはなかなかの重責でありました。
(鈴木啓之=アーカイヴァー)
●(写真)『おそ松くん』赤塚不二夫(小学三年生68年9月号付録)



「なめんなよ 又吉のかっとびアルバム 写真集」


 なんとなく犬も猫も好きだった子供たちを一気に猫派化させた80年代初頭の一大猫ブーム「全日本暴猫連合 なめんなよ」、通称「なめ猫」。沢山のなめ猫グッズが発売されていましたが、当時自分たちのお小遣いで買えるのは「死ぬまで有効」のおもちゃ免許証だけでした。みんなそれぞれお気に入りの猫の免許証を定期券入れに忍ばせて休み時間に見せ合いっこしましたっけ…(今でも大切に

しています)。時が経ち、働き始めた頃にヴィレッジヴァンガードでなめ猫グッズを見つけてしまい、大量に大人買いしたこともありました。
 その後も、暴走族追放やYモバイルのキャンペーンポスターを街中で見つけたりと、なんだかんだ忘れ去られていない感があり、その度に「虐待説もあったけど、やっぱりかわいいな」と思っていました。近年は、コロコロコミックでの連載

や、コンビニで食玩としてグッズを販売したりもしていたそうです。
 ねこみみ編集部の最初の本「ねこみみ ~猫と音楽~」で猫ジャケ特集を組んだ時に、てりとりぃ同人の鈴木啓之さんが「なめんなよ」の7インチを持って来てくださったので、頭の中で「キャットテールのミケ子~♪」というフレーズが流れだし、一気になめ猫愛がよみがえりました。鈴木さんは後日、なめ猫写真集をプレゼントしてくださり、その写真集がまたすごいのです。
 デジカメもCG合成も無い時代にありえないくらいの緻密な完成度の作り込みで、いちいち猫にからめた気の利いている小物や文言も満載! 特撮映画を見ているような感動を与えてくれるのです。80年代のつっぱり全盛期の時代性も徹底

しているので、つっぱり×猫のかわいさももちろん楽しめるのですが、ただかわいいだけではない確かな技術に裏付けされたプロ中のプロの仕事なのです。
 あまりの感動に、どうにか再発できないか模索していたところ、お付き合いのあるリットーミュージックの新しいレーベル「立東舎」が面白い企画を探しているということで、呑みの席でしたが、なめ猫写真集を再発したいお話をしました。呑みの席のせいか興味を持っていただき、このたび文庫本で再発する運びとなりました。
 なめ猫プロデューサーである津田覚さんからもディープすぎるお話を伺いつつ、愛情たっぷりに再編集&デザインしました。シールも付いています~♪
(長井雅子=デザイナー/ねこみみ編集部)