2016年4月29日(金)

 
ヒトコト劇場 #80
[桜井順×古川タク]








嗚呼、あこがれの「お墓デート」の巻(青山霊園 回想篇)


 前から思っていたことがありました。実は墓地ってお散歩するのにもってこいな場所なんじゃないか、と。以前、乃木坂にある新国立美術館に立ち寄った帰り、歩いて表参道のほうに出てみようとなんの気もなしに青山霊園を横切ってみたところ、これが隅から隅まで歩いてみたくなるほどの素

敵な場所でした。墓地なのにジメジメした雰囲気はまったくなく、非常に清潔で、風格ある墓石が整然と立ち並んでいました。これは青山というハイソな土地柄がそうさせているのでしょうか。お墓は必ずしも仏教スタイルのものとは限らず、キリスト教のものが混在しているのもその雰囲気を形

作る大きな要素となっています。それもそのはず、園内には外人墓地のブロックがあり、牧師さんをはじめとして、江戸時代末期から大正時代にかけて来日した外国人たちが眠っているのです。この方たちの多くは日本史の授業で習った「お雇い外国人」の皆さんです。それぞれの墓石にはその人がいつ日本に来て、どんな功績を残したのかが書かれており、神社やお寺などの史跡に行くと、由緒が書かれた立て札を声を出して読まずにはいられなくなる自分にとっては大発見の連続。故郷から遠く離れた異国のために働き、そしてこの場所に骨を埋められた、その献身ぶりに100年の時を超えて感謝の気持ちが自然に湧いて出てきます。墓石を前にして、胸の中では『ラストサムライ』で馬に乗って敵に立ち向かってい

くトム・クルーズの姿がなぜかオーバーラップしていました(映画はフィクションですが、トムは近代式軍隊の指導のためにアメリカからやってきたお雇い外国人という設定)。
 軍隊の話が出たところでーーほかに印象的だったのは、旧日本軍の軍人のお墓が多かったことです。大きく立派な墓石が多いので、とにかく目につきやすい。こんなに大きなお墓、これからこの場所に建てようとしても絶対許可してもらえないでしょう。お雇い外国人にしてもそうですが、特に日本史を学んでいても名前を聞くことのない偉人がこんなにいたのか、と驚かされます。これまた墓石に詳しい経歴が刻まれているケースが多いので、その人がどんな戦歴を歩んできたのか、大変勉強になります。鎌倉時代の昔から、武士の

恩賞といえばまず土地であったわけですが、こうして高貴な土地で永久に祀られる、ということも、日々の職務で命を賭ける上での大きなモチベーションになったであろうことが想像されます。陸軍の人のお墓と海軍の人のお墓でセンスの違いがハッキリと分かれて見えるのも興味深いところ。大小、様々な墓石の形から、生前の誇り高き精神がこちらにも伝わってくるようで

す。
 今回、本当は伝説的な映画関係者たちが数多く眠るという池上本門寺へ出かけ、お墓デートを実践してみたときのことを書くつもりでしたが、前置きだけで字数が来てしまいました。桜のまだ残る境内で大映の永田雅一社長や溝口健二監督、そして永遠のスター市川雷蔵のお墓を巡ったときの話は、また次の機会に。
(真鍋新一=編集者見習い



主題歌分析クラブ 『おんぶおばけ』


 横山隆一の漫画のアニメ版で監修も横山が担当。すでに55年には、おとぎプロ制作で短編アニメ映画が制作されていた。音楽は三保敬太郎が担当。『11PM』(65年)、『ザ★ゴリラ7』(75年)、『全日本女子プロレス中継』(77年)などのテレビ番組や映画音楽などを多数手がけている三保だが、アニメは本作と66年版

『おそ松くん』のみ。『おそ松くん』は渡辺浦人(渡辺岳人の実父)降板後に途中から引き継いだ。
 「おんぶおばけの歌」の歌は前川陽子が歌っている。彼女のファンキーな要素が存分に出た名唱だ。基本的な使用コードは、「E7」と「D7」を除けばダイアトニック・コードのみ。そのため、重要なのがリズム

・セクションだ。頭サビを終えてからのAマイナー・キーでのグルーヴ感たっぷりのプレイが素晴らしい。シンプルな構成ゆえに、ベースの鈴木淳とドラムスの猪俣猛によるブラック・ミュージック直系のリズム・セクションの切れ味がなおさら目立つ。また、全編にフィーチャーされているモーグ・シンセがアヴァンギャルドに暴れまわっており、アナログ特有の太い音色は、デジタルでは再現ができないもの。結果、現代の音楽では出せない次代を感じさせるオリジナリティたっぷりのサウンドを生んでいる。楽曲、歌手、演奏者の方向性が見事に一致、素晴らしいトラックが生まれた。
 「おんぶはネ」の歌は葉村エツコが担当。スクエアな16ビートのナンバーだが、わずかながらスウィングを感じられるので、ソウルフ

ルなノリになっている。ここでも鈴木と猪俣のブラック・フィール溢れたリズム隊のノリが全体を牽引している。全体に流れるアナログ・シンセサイザーも時代の空気を感じさせる。メロディ自体は2/4小節を含む11小節の短いワン・コーラスを3度繰り返してサビという構成。サビ以外は、「G」、「C」、「D7」のスリー・コードのみ。大サ

ビでは「Am」が当てられているが、ダイアトニック・コードのみのコード進行だ。テレビ・ヴァージョンではAメロが終わったら、すぐにフェード・アウト。サビがカットというそれまでのセオリーを覆す編集だ。レコードを購入した人は、「サビあったんかい!」と驚いたことだろう。
(ガモウユウイチ=音楽ライター/ベーシスト